2019年12月15日日曜日

マウスピース矯正治療が流行っている

3Dプリンターで簡単にマウスピースは制作できる(ヒュレットパッカードのマルチジェットフュージョン)
一台4000万円くらい

 インビザラインなどのマウスピースタイプの矯正治療が流行っており、一般歯科でも矯正治療を行うところが増えている。もともとインビザライン社は矯正専門医しか講習会に参加できないと聞いていたので、おかしいなあと思っていたが、キレイライン矯正など、おかしな治療法が乱立しており、そうした治療法を一般歯科で行なっている。

 こうしたマウスピースタイプの矯正治療は、適応が限られており、今の所、非抜歯で治療できる軽度から中等度の不正咬合に限られている。ほぼ全ての症例で歯の隣接面を削除するディスキングという方法が取られるために、必ずしも生体に優しいとは言えない。過度の削除により隣接面のう蝕を発生する要因ともなる。さらに患者さんの協力度により治療の成否が関わるために、途中での脱落も起ころう。こうしたことも考えると、マウスピース治療だけで治ればいいのだが、抜歯や通常のブラケットを用いた治療が必要な場合が出ている。問題はこうした治療法の変更ができるかという点である。マウスピース治療を行う一般歯科医の中には、これ以外の治療はできないというところがある。

 また小児のう蝕の減少に伴い小児の矯正治療をうたう歯科医院が多い。早い時期から矯正治療を行えば、本格的な矯正治療がいらなくなるというわけである。こうした咬合誘導という考えは、日大の深田英朗教授が1960年ごろに提唱した概念で、不正咬合になる軌道を早い時期に修正することでその後の不正を減らすというもので、私が小児歯科にいた頃、1980年代も盛んであった。ただその後の40年近い矯正治療経験からすれば、こうした考えは実に魅惑的ではあるが、現実はそうでない。もともとこうした考えは、1950年代頃からヨーロッパ、特にドイツで矯正治療の健康保険制度が開始され、マルチブラケット装置による治療が高価で手間がかかるために取り外しのきく、可撤式の矯正装置が取り入れられたことによる。拡大装置や、機能的矯正装置と呼ばれるものである。優れた治療法、例えばインプラント矯正のようなものは瞬く間に標準的な治療法として定着したが、床拡大装置や機能的矯正装置は80年以上の歴史がありながら矯正歯科医の中で定着していないのは、その治療法に限界があることを意味する。一方、マルチブラケット装置は発明されて100年近くたつが、それでも世界中の矯正歯科医の標準治療となっているのは、これに代わる治療法がないからであろう。

 私自身、一般歯科医が小児の矯正治療するのは何とも思わない。最近では取り外しのできる既製品を使った治療法もあり、こうした簡単な治療法で治れば、わざわざ矯正専門医で治療する必要はない。問題は、料金である。中にはこうした小児の矯正治療に数十万円かかるところがある。マルチブラケット装置による仕上げの治療も含めているのであれば合点するが、あくまで小児の咬合誘導を主とした治療法で、これで治らなければ治療できないという。もちろんここで矯正専門医に行くと全く始めからの治療となり、小児の矯正治療費は無駄となる。マウスピース矯正治療と同様で、これでなおらなければ治療できないという。小児の矯正治療は、矯正専門医の一期治療、あるいは早期治療にあたり、そのままマルチブラケット装置に移行する場合は、この一期治療費が差し引かれた治療費が二期治療費となる。もちろん一期治療で治れば、二期治療は必要ない。

 アメリカのスマイルダイレクトが日本でもいよいよ進出しそうである。これは自宅に印象材のキットが送られ、それで口の型と口腔内写真を会社に送れば、インビザラインのようなマウスピースが送られてくる。店舗型のところも急速に増加し、デジタル印象で資格のない店員が型をとり、それで製作される。費用は20万円くらいで、アメリカでは急速に拡大しており、インビザラインの脅威となっている。多分、導入と同時に、クレームが溢れ、こうしたマウスピース治療そのもの、あるいは矯正治療そのものが特定商法取引法に(http://hiroseorth.blogspot.com/2015/07/blog-post_26.html)に導入されるだろう。むしろその方がおかしな矯正治療を行なっている歯科医院が駆逐され、よいかもしれない。

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