2019年12月3日火曜日

週刊ダイヤモンド 歯医者のホント



 以前、週刊ダイヤモンドから矯正治療の費用や患者数のアンケートがきて、その集計をまとめた雑誌が先日、送られてきた。当院の一期、二期治療費は20万円ずつだが、雑誌では総額の治療費として30万円ずつとなっていた。調整料を含めればそれくらいなるかということか。また1年間の患者数は何人かという質問に対しては、最初は検査まで入った新患数を書いたが、実際に治療した患者数を教えて欲しいという電話があり、数え直し、確か727名と書いた。他の先生でもこの質問には混乱が多く、この数値はかなりデタラメである。

 この雑誌では、ブラケットやワイヤーの費用から、検査機材の費用までかなり詳しく調査していた。このブログでもあまりこのあたりは書いていなかったが、こうした雑誌でも取り上げられるなら、実際の費用について、もう少し説明しよう。

 矯正器材というと真っ先に思い浮かぶのは、歯の表面につけるブラケットと呼ばれるもので、この費用は種類によって異なる。まず最も安価なのは金属製ブラケットで一個が200円から400円くらいである。奥歯につけるチューブも金属製の場合も多いが、これも種類により450円から900円くらいとなる。非抜歯で28本全てつけるとなると、総額で12000円から15000円くらいとなる。接着材料費も含めて、材料代が2万円を超えることはない。白いタイプのコンポジットレジンのブラケットは一個800円くらいなので、全部で23000円くらい、セラミックのものは会社によって違うが、安いもので一個1000円、高いもので3500円くらいする。高いもので換算すると全部で8万円くらいになる。さらに裏側につけるリンガルブラケットの場合は、ブラケット自体は一個1500円くらいであるが、歯につける位置決め用のトレーを技工所で作るのでそれの費用が別にかかる。多分、ブラケット代込みで15から20万円くらいであろう。ワイヤーについても安いのは一本100円くらい、高いので1000円くらいで、他のゴム、結紮線、モジュールなどは数十円程度である。また矯正用プライヤーはかなり高く、一本25000円くらいし、1人に私のところでは4種類のプライヤーを基本としているので、それぞれ20セットくらい用意している。ただこれもカッター類は5年ごとに交換するものの、他のプライヤーは10年以上、楽にもつ。それほど大きな出費ではない。

 週刊ダイヤモンドでも、このあたりのことはきちんと書かれており、矯正治療費が高いのは、こうした材料費ではなく、技術料であると結論している。つまり通常の表側からの矯正治療費が80万円とすると、このうち材料費が占める割合は多くても10%程度であり、人件費、家賃などの経費や減価償却費を含めても40%、残りの60%は技術料であり、一般歯科と比べてもその割合が高いとしている。同じことは美容院でもそうで、シャンプー代やハサミの値段はたかが知れており、その料金のほとんどはカットも含めた技術代となる。それゆえ、原価率が低いのはけしからん、安くしろというものではない。

 こうした技術料という観念は今のネット社会では、不合理なものとみなされがちであるが、実は多くあり、弁護士にしても材料費なるものは存在しないし、家庭教師、塾だってそうである。人が直接関係するような仕事では、この技術料というのは直接、料金となる。ただいずれも人が技術料に金を払うのは、その専門性に対してであり、全く人の髪を切ったこともない素人に高額な料金を払うことはない。いくら高くても結果が良くて、満足するなら、金は出す。こうした点からすれば、優れた矯正歯科医の治療費が最も高いということになるが、日本臨床矯正歯科医会の先生、日本矯正歯科学会の専門医の先生を見ても、平均か、それ以下の料金であることが多い。逆に一症例に数百万円とるような先生でまともな治療、少なくとも上記の優れた臨床技術を持つ先生のレベルには達していない。

 歯科医の言葉に踊らされ、すぐにそこの歯科医院で矯正治療を始める患者さんがいるが、一旦、治療契約して治療費を払うと、他の所で治療したくなっても、転医はかなり難しく、治療費の返却も難しい。さらにうちの医院もそうだが、多くの矯正歯科医院では、他で治療を受けている患者さんの治療は基本的には行わない。患者を奪ったと勘違いされるからで、遠方へ転住して通院が困難な場合以外は、元の歯科医院でよく相談して治療を続けるように指示する。中には明らかにひどい治療の場合もあるが、職業倫理上、これまでの経過を知らないまま軽はずみに他歯科医院の悪口は言えない。それ故、どこで治療を受けるかが矯正治療では決定的に重要なことになってくる。

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