2024年2月22日木曜日

2024年度診療報酬改定 矯正相談料

 



2024年度の歯科診療報酬改定について厚労省から発表があった。この中で、初めて「矯正相談料」が新設された。矯正相談料1は主として矯正専門医院、矯正相談料2は主として一般歯科医院で、年度で一回のみ420点が算定できる。学校歯科健診で歯科矯正の適用となる咬合異常(先天歯、口蓋裂、先天性疾患に伴う不正咬合)や顎変形症が疑われる患者に対して保険適用の適否について文書で提供した場合に算定できる。

 

具体的に言えば、4月に学校歯科健診で、不正咬合が指摘され、それを近所の歯科医院に相談に行ったとしよう。従来では、不正咬合では診断名とならないので、この場合は自費治療となった。学校で指摘されたのに、歯科医院に行くと保険が効かないと言われれば、納得しない親も多いだろう。それが歯科医院に行くと、噛み合わせが逆で、将来的に手術が必要となる、あるいはこの症例は手術が必要ない、もう少し様子を見なくてはいけない、専門医に紹介した方が良い、など色々な判断が下され、これを文書にして患者の親に渡せば、おそらく初診料233点と矯正相談料2420点、計655点、さらにパントモ、セファロなどを撮れば、その費用も加算できることになる。これを矯正専門医に紹介した場合は、その矯正歯科医は、今度は矯正相談料1を算定できると思われる。一般歯科医を通さずに直接、矯正歯科医院に来た時も、矯正相談料1となる。

 

反対咬合については、機能的反対咬合と言って、前歯の早期接触により下顎が前に動かしてかみ合わせが逆になることもあるが、通常は多少とも下顎の前方への過成長がある場合が多い。この場合は、将来的に外科的矯正になる可能性があるために、矯正相談料は算定できる。上顎前突についても反対咬合ほどではないが、外科矯正の可能性もあるし、交叉咬合もそうである。ただ歯のデコボコ、叢生については将来的に外科的矯正あるいは保険の適用となるとは考えられない。このあたりをどうするかは、もう少しはっきりしてくるだろう。ただ学校歯科検診では、歯並びの診断は、異常なし:0、要観察:1、要精検:2の3つの段階があり、学校から通知されるのが、このうち2であるなら、反対咬合、上顎前突だけでなく、叢生や開咬もこれにはいるため、実際はひどい叢生であっても、要精検、歯並びの問題があるとして、学校から歯科医院で行くようにと言われる。要精検であれば、咬合の種類は問われない可能性が高い。

 

一方、一部の矯正歯科医院では、マイナンバーカードの準備やレセコンの導入に躊躇して、保険診療をしていないところがある。この場合、顎変形症については、保険を使わないで、術前、術後矯正をする場合は、手術、入院も自費となるため、外科的矯正は事実上できないことを意味する。実際に保険治療はしていないが、保険医療機関である場合、学校検診で不正咬合の通知を受けて受診したときは、必ずこの矯正相談料1を取らなくてはいけない。保険項目を自費で取るのは、制度上許されていないからである。まず保険医療機関の返上が必要となる。私のところでは、相談料はこれまで3000円であったが、矯正相談料を適用できるなら、420点+233点?が取れるため収入増となるし、患者にとっても3割負担で安くなる。

 

おそらく厚労省に狙いは、まず矯正相談料という項目を新設し、実際にどのくらいの件数が出るかを知りたいのであろう。人数がそれほど多くなければ、将来的には治療自体も保険適用になるし、数が多すぎて莫大な費用がかかるとなると、これまで通りに治療は自費ということになろう。矯正治療の保険の点数は、10年単位の治療期間でみると、トータルで7万点くらい70万円くらいになるため、該当者の数が多いと、財政の負担が大きい。ただ従来の学校検診の指針はかなりばらつきがあり、ある先生は少しでも不正咬合があれば、2の要精検にする一方、別の先生はかなりひどい症例だけ2の評価をするために、学校により2に該当する人数がかなり違う。厚労省と文科省とすり合わせ、かなりひどい症例のみ2にするような指導も必要かもしれない。

 

健康保険は公平性が全く守られておらず、若い人は保険料が払っているが、あまり恩恵がないのに対して、年寄りは保険料をあまり払っていないのに、医療的な恩恵は大きい。特に近年は子供の虫歯はほとんどなくなっているので、親からすれば、医療保険料を払っているのに、子供が歯科治療の恩恵を受けることはない。これは損であると考えても無理はない。せめて前歯で物を噛みきれない、反対咬合、上顎前突、開咬などひどい不正咬合については、是非とも保険適用になってほしい。ただ学校検診の指標で言えば、要観察1と要精検2の差が難しく、本来なら軽度―中等度の不正咬合は自費で治療を、重度の不正咬合は保険でという流れが望ましいが、実際に両者の区別は難しく、欧米の倣い、保険適用については、厳密なグレードによる点数付けが必要と思われる。個別指導でチェックしてグレードの低い、重症でない症例を保険で治療した場合は、返金などのペナルティーがあっても良いし、あるいはこの矯正相談1、2の文書提出に際して、グレードによる点数化をさせれば良い。例えば、学校歯科検診で、歯科医院を受診した場合、オーバジェット、オーバーバイトや叢生量、骨格異常などの診査項目に沿って点数付けを行い、その点数がある基準以上であれば、重度の不正咬合と認定し、保険適用となるようなシステム。現実的にはこうした流れか。

 

制度上は、重度の不正咬合の矯正治療を保険にすることは可能であるが、一方、受け入れ医療機関が足りない可能性もある。重度の不正咬合の治療には、高度なテクニックが必要であり、手術を併用することもある。そのためトレーニングを受けた矯正歯科医による治療が望ましい。その場合、日本専門医機構認定の矯正歯科専門医の資格を持つ先生がいる医院での治療が望ましいが、残念ながら青森県では該当医がおらず、不正咬合の患者が保険治療での治療を希望しようとしても、いく歯科医院がないということも起こり得る。これもまた不公平である。




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