2009年3月8日日曜日

矯正治療費



 矯正治療費については、何度か書きましたが、患者さんにとって一番関心が高いところなので、もう一度述べたいと思います。

 矯正専門医の多くは、トータルフィの料金設定をとっています。これは装置の種類、多さにかかわらず、治療の最後まで請け負う、といった料金体系です。例えば、出っ歯を主訴として来院したとしましよう。検査を行い、治療方針を立てます。多くの場合、マルチブラケット装置という矯正装置をつけることになりますが、それ以外にも機能的矯正装置、パラタルバー、ヘッドギアーといった装置が必要になるかもしれません。トータルフィではこれらの装置代がすべて料金に含まれます。治療に必要な装置はすべて治療代に入ることになります。当然、治療途中で、転居して新しいところで治療を継続する場合は、料金の清算を行うことになります。治療が半分で転医した場合は、全治療費の半分を、1/3で転医した場合は2/3返金することになります。また治療終了しても、後戻りがあり、再治療を希望される場合は基本的には新たな料金を発生しません。最初に設定した料金以上に治療費がかかることはありません。

 一方、一般歯科医や大学病院(国立)では装置ごとの料金をとる方式がとられることが多いと思います。上の例で言えば、マルチブラケット装置はいくら、機能的矯正装置はいくら、パラタルバーはいくらという風になります。装置が壊れたりした場合の再製料金はさすがにとらないとは思いますが、ある装置を使っても効果がなく、違う装置を使う場合は新たな装置代が発生すると思います。当然、転医時の清算はなく、再治療の場合は新たに費用がかかります。

 欧米あるいはアジアのほとんどの国の矯正専門医は、私の知る限り、トータルフィの方法をとっています。これは専門開業すればわかりますが、治療のため、新たに装置を変える、付け加えるのに、いちいち料金をとり、患者さんに説明し、了承してもらうのが難しいからです。ドイツでも昔、矯正治療も保険が適用されていた頃は装置ごとの料金であったようです。保険で安く治療するため、できるだけマルチブラケット装置を使わず、床矯正装置である程度、治療をしようとしたためです。そのためヨーロッパでは床矯正装置(機能的矯正装置)、アメリカではマルチブラケット装置という構図ができたのです。今ではヨーロッパも基本的にはトータルフィ制度になり、装置も自由に選択されるようになっています。
 
 症例によっては非常に簡単な装置で治ることがあります。10年以上経過をみて、ひとつの装置できれいな噛み合わせを達成する患者さんもいます。この場合は、装置代で治療を受けると、大変安く治療できることになります。一方、反対咬合で4歳の時にムーンシールドで治療をし、一応噛み合せが治ったとしましよう。ところが永久歯がでると、再び反対咬合で違う装置で治す必要があると、また費用がかかります。その後、でこぼこの問題がでてきたり、成長により再び、噛み合わせが逆になったりすると、今度はマルチブラケット装置代がかかってきます。結局、患者さんにすれば次々費用がかかるようでは、もういいという思いになり、完全に治らないで治療を中断することになります。

 日本では、歯科治療も保険制度があるため、個々の治療、装置ごとに治療代がかかるという方法(出来高払い)が患者さんには一般的です。そのため請け負い制という方法はどうもなじみがないようです。歯科医の方でも、出来高払いの感覚から抜け出せないようで、装置を作るのに技工代などかかっているのだから、その費用をとるのは当然だ、なぜ転医したら料金を清算しなければいけないのか、患者の都合で転居したのだから、そこまで責任を負う必要はないと言われます。これもひとつの考えで、矯正歯科という特殊な世界にいない限りはなかなか理解しにくいことなのでしょう。

 一方、請け負い制も問題があり、歯科医側からすれば、かなり長期間責任が生じます。例えば、4歳で治療を受けるとなると反対咬合の男子では17,8歳まで責任を負うことになります。そのため、年配の矯正医では責任を持てないから小児の治療を受けないというひともいます。昔、患者さんから先生が死んだら費用の方はどうなるかと質問されたことがあります。かなり失礼な質問かと思いましたが、請け負い制をとる限り、当然こういったことも出てきます。そのため、日本臨床矯正歯科医会でもこういった問題に対して何度も討議され、県あるいは地域の会員が協力して解決できるような方式が提案されています。

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