2009年3月17日火曜日

口元美人

 浅田次郎さんの近著「ま、いっか。」(集英社)の中で、「目だけ美人の氾濫」というエッセイがある。長いこと美人の条件として目が重要と思っていたが、それより重要なのが口元である、いくら目がきれい、肌が白いといっても、口元悪ければすべて悪いとしている。本当の美人は口元がきりっと閉じられ、知的な雰囲気があるが、最近の若者は眼には化粧をぱっちりしているが、口はぽかんと開け、だらしなく、誠にみっともないという内容である。

 美の基準とは本当に難しく、時代や年齢によっても異なり、これが美人という定義はできない。ただ矯正歯科の分野では横顔(プロファイル)の研究が多い。これは横顔のシルエットを、少しずつ変えていき、あごを少し前に、あるいは逆に後ろに下げた何種類のシルエットを被験者にみせ、どれが最も美しい横顔かといった研究である。多少はばらつきはあるが、どのような研究でも、ほとんど同じシルエットに集中してくる。つまり美しい横顔については、ある程度意見が集約してくることになる。鼻とアゴを結んだ線上あるいは前後1,2mmのところに口元がある状態を美しいとされる。

 私的には、口元美人としてまっさきに挙げられるのは、フランスの女優のアヌーク・エーメである。きりりと閉まった口元に知的で、上品な香りがする。とくに代表作の「男と女」は彼女の美しさが随所に出ていて、何度みても飽きない。当時年齢は30歳半ばで、女性としては最も成熟したころで、服装や髪型も、今でも参考になるファッションである。口を閉ざした時の憂いを帯びた表情と、笑って白い歯が見える、このコントラストこそが美人の条件であろう。



 黄色人種では、東南アジアも含めて、上下の前歯が前に飛び出ている、上下顎前突のひとは多い。白人に比べてオトガイの発達していないため、よけいに口元の突出感が目立つ。韓国や台湾などではこういった患者さんも多く、友人の台湾の矯正歯科医に聞くと、約半分の患者が口元の突出感を主訴にくるそうだ。当然、小臼歯を4本抜く、抜歯治療が選択され、抜歯空隙を利用して前歯をできるだけ、後ろに引っ込める治療法が行われる。浅田さんは日本の女性はもっと口を閉じる努力をせよと言っているが、実は構造的に閉じられないひともいて、こういったひとこそ矯正治療で歯を内側に入れることで驚くほど美人になるケースがある。

 日本では、見た目の改善のため健康な歯を抜く事に躊躇する傾向が患者、歯科医双方にあるが、少なくとも、お口を閉じるのにあごの先の筋肉が緊張するような状態で、上下の前歯が出ている状態では、抜歯して治療した方がよいと思う。

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