2009年7月8日水曜日

新型インフルエンザ騒ぎ



 歯科医師会で医療管理を担当しているため、ここ2か月ほどは新型インフルエンザの対応に追われました。今でも終息したわけではありませんが、マスコミの報道も少なくなり、何となく落着いてきた感じがします。

 ずいぶん昔、大学でも医療感染対策班だったのですが、歯科医院で完全な医療感染対策をするのは不可能で、また非常に金のかかるという結論となりました。プライヤーやピンセットのような器具は何とかオートクレーブで滅菌でき、高温にできないゴム製品などもガス滅菌で対応できるのですが、けっこう多くの器材、材料が滅菌できないことが判明しました。また手袋、マスクはもちろん、白衣、帽子までディスポでするとなるとかなりの出費が必要です。歯科治療台(ユニット)の手で触る部分もすべてビニールで覆う必要もありますし、歯を削るタービンやエンジンも患者ごとに交換して、滅菌しなくてはいけません。また屋内の空気中の細菌、ユニット内の水の汚染、こういったこまごまとしてことを検討していくと、ノイローゼ気味になりそうです。

 一方、口の中は肛門と同様、最も汚れたところで、唾液に器材が触れた瞬間、すべて汚染されるので、あまり感染対策に一生懸命しても意味がないという意見もあります。唾液中1ml中の細菌数は1億から10億と言われ、皮膚などに比べれば、それこそ桁違いに汚染された場所です。ところが口腔内は体の中でも最も傷が治りやすいところで、歯を抜いてぽっかり穴が開いても、すぐに治ります。皮膚の傷なら毎日、消毒して、包帯もしますが、口の中の傷は何もしなくても治っていきます。当たり前のことですが、人では乳歯が抜けて、永久歯に交換しますが、その度にその傷が感染したのでは大変ですが、そんなことはありません。

 一時、肝炎やエイズの歯科医院での感染が騒がれました。キンバレー事件という有名な事件があり、エイズにかかった歯科医から6人の患者にエイズが感染したという事件ですが、その後の調査では、この歯科医とは関係ないことがわかっています(キンバリーさんは性交経験がなく、歯科治療以外エイズにかかる可能性はないと主張していましたが、その後の調査でセックス経験者のみが持つヒト乳頭種ウイルスが検出された)。またフランス外科医でエイズにかかりながら10年以上、1万人の手術をしたが、患者の中でエイズになったひとはいなかったようです。エイズに関しては医療者側から患者への感染例はないようですが、肝炎については1961—1986年の間に歯科では9名の感染報告があります。ただ1987年以降、ここ20年報告例はなく、知識の普及や手袋の着用などにより、医療者から患者への感染はないと言ってもよいようです。患者から患者への器械、器具を通じてのエイズ、肝炎の感染は報告されていません。タービン内に存在する緑膿菌が感染した2例がありますが、いずれも抗がん治療中で抵抗力の落ちた患者でした。今ではほとんどのタービンは内部の水を排出する仕組みになっており、こういった感染も防止できます。

 一方、患者から医療者への感染は非常に高率です。肝炎、エイズとも血液、体液で感染しますが、例えば唾液で感染するのはバケツ一杯ほど必要とされ、主な感染経路は血液感染です。患者の血液が細かな傷、針刺し事故で医療者側に感染する可能姓は高く、逆に医療者側が出血状態で治療を行い、それが患者に傷に入ることは可能性としては極めて低いと思います。当然、手袋をして治療するからです。また治療器具に血液についた菌が付着して、それが患者の傷に入り感染する可能性もかなり低いと思います。治療に使った治療器具をたらい回しに使うことはなく、水洗され、滅菌されるからです。

 報告されなかった症例もあると思われますが、全世界で日々多くの治療が行われていながら、報告例が皆無ということは、歯科医院での患者への感染は極めて低いと思われます。おそらく薬による重篤な副作用の方がよほど確率は高いと思います。

 実験上ではC型肝炎ウイルスは室温で3週間、B型肝炎ウイルスは8日間生きているといわれており、まだまだ悩みは尽きません。ただ感染の可能性のみを論じていけば、キリがなく、今回の新型インフルエンザでもそうですが、あらゆる場所、機会に感染の可能性があり、外に一歩も出られないことになります。

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