2024年4月10日水曜日

次世代航空機の開発


 

経済産業省は、新たな国産旅客機開発に向けて、2035年以降に複数の会社とともの開発支援する方針を立てた。三菱重工のスペースジェット撤退の教訓を生かして新たな旅客機開発を行うという。確かに販売の90%くらいまでこぎつけていたスペースジェットの失敗をそのままにしておくのはもったいないという気持ちはよくわかる。ただスペースジェットも最も大きな問題は、アメリカ連邦航空局(FAA)の型式証明の問題であり、この問題がある限り解決はない。

 

型式証明は飛行機を国際的に売るためには必須の検査であり、例えば、アメリカFAAの型式証明がないとアメリカの航空会社に売れないどころか運行もできない。ただ日本であれば、日本政府による型式証明をとれば、日本での運行は可能であるが、FAAとは相互承認の協定があるとはいえ、欧州航空安全機関EASAFAAとの関係とは異なる。EASAで型式証明が得られたエアバス社の旅客機は同時にFAAの型式証明を得ることができ、またFAAで型式証明が得られたボーイングの旅客機は同時にヨーロッパの型式証明を得ることできる。ところが日本やブラジル、中国で型式証明が得られても、EASA FAAが取れるとは言えず、三菱重工の失敗を見ると、むしろFAAEASAは自国以外の会社、もっと言えば、ホンダジェットのような小型機を除く、通常の旅客機については、ボーイングとエアバス以外は締め出しているといえよう。この2社以外の航空会社としてはカナダのボンバルディアとブラジルのエンブラエルの2社があるが、前者はもはや旅客機を作らず、後者にしても三菱重工のスペースジェットにやや遅れた開発が始まったE-jet E22013年から開発を始め、2016年に完成し、初飛行をしたが、そのまま開発延期となったままである。

 

三菱重工のスペースジェットについては、私自身、YS-11以来の国産旅客機ということで多いに期待して三菱重工株まで買ったほどであるが、中止までの経緯を見ると、アメリカFAAによるいじめとしか思えないような仕打ちであった。個人的な話であれば、カッとなって殴りかかるようなものである。詳しくは忘れたが、久しぶりの国産旅客機開発ということで、日本政府も全面的に三菱重工に力を貸し、どうすればFAAの型式証明を得られるか、詳しく調査して設計、制作に入り、初飛行に漕ぎ着けた。あとは確か2000時間以上の飛行と安全試験に合格すればいいという状況になっていた。それもクリアできそうになると、今度は根本的な最初の設計に関わるような変更を指摘される。そしてその指摘を修正した飛行機による同じような性能試験を求められ、それを今度もクリアするとなると、ボーイングのB737の飛行機事故によってまた基準が変わり、再変更を指摘されるといった具合に、際限なく変更が求められた。きちんとした具体的な合格基準がないのが原因である。おそらく試験官がかわるだけでもまた基準も変わるのだろう。いずれにしても、これこれ変更してくださいと言われて、変更するとまた別の箇所の変更を求められ、それをまた変更すると、もっと基礎的な最初に言うべきところの変更を求められるといった塩梅である。当初は、日本叩き、あるいはアジア人への人種差別も入っているかと思ったが、アメリカに唯一存在する旅客機メーカー、ボーイング社も最新機種B787FAAの型式証明を取ったのが2014年、これは最後で、新型機より派生型の方が証明を取りやすいために、ほぼ60年前に開発されたB737が改良されていまだに生産されている。

 

三菱のスペースジェットの反省というなら、ボーイングかエアバス社との共同開発の方がいいだろう。スペースジェットは70-90席のリージョナルジェットを目指したが、いまだにパイロットと航空会社の契約、スコープ・クローズの問題は解決されておらず、エンブラエルのE2ジェットもこのために開発延期となっている。最大座席76席、重量39トンという制限はジェットではスペースジェットでしか達成できず、航空会社にとっても燃費の悪い旧式機体を使うジレンマとなっている。具体的には、スペースジェットの70席を、ボーイングと共同でモデファイさせ、さらに燃費、安全性、航続距離を上げた機種の開発を狙ってはどうだろうか。1からの設計ではないので、コスト的にはかなり縮小できる。すでに三菱重工はカナダのボンバルディアを吸収しているし、ここはボーイングとも関係が深いので、ボンバルディアの新型機体とする手もある。ボーイングはブラジルのエンブラエルとの事業買収に失敗しているが、いまだに小型機開発を諦めておらず、流石にB737の延命はこれ以上無理なので、70-90席、さらには120-130席までの機体も欲しいところである。

 

経済通産省が目指す、新時代の航空機、水素、EVなどを動力とする航空機は、現行のFAAの型式証明は得るのは不可能に近いか、莫大な費用と期間がかかる。こうした厳しい型式証明制度自体が旅客機の進歩を止めており、1958年に導入されたボーイング707から現行機種もそれほど大きな進歩はない。

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