2024年4月10日水曜日

当院における外科的矯正

 






二年前に当院で矯正治療を学び、その後、日大松戸で2年間の研修を終了し、4月末に台湾に帰国する先生が先日、弘前に来た。目的は、当院での外科的矯正の診断、治療法を学ぶためである。一応、2022年度に外科的矯正で来院し、治療中の21名について、それぞれ診断、治療方針の策定の実習をしてもらった。

 

午前中の2時間は、鹿児島大学歯学部矯正歯科の診断法、ファイシャルダイアグラムを使った診断と外科的矯正の診断、治療計画の策定、及び東北大学歯学部矯正歯科のCDS分析とそれによる治療計画の実習をした。以前のブログでも説明したが、日本の歯科大学は、大きく分けて顔から診断するところと咬合、かみ合わせから診断するところに大別される。顔からの診断というと、まず理想的な横顔と患者の横顔を比較して顎をどれだけ移動すると利用的な顔になるか、その場合、かみ合わせをどうするかを考える方法である。逆にかみ合わせからの診断は、まず患者のかみ合わせを理想するのは顎をどのように移動するかから考え、その場合、顔はどのように変化するかという方法である。

 

例えば、下顎前突、反対咬合の例で説明する。上顎が正常で、下顎が大きい、骨格性反対咬合の場合、多くの症例で、上の前歯が外に飛び出て、下の前歯は中に倒れている。これをデンタルコンペンテーションという(補償作用)。咬合から考える大学では、大臼歯関係はI級を目標にするので非抜歯で術前矯正をし、上顎は叢生が大きいか、よほど切歯が前に飛びでていなければ、そのまま並べる。結果、オーバージェット、オーバーバイトは良好で犬歯、大臼歯関係はI級となる。ただ下顎の後退量はかなり小さい。逆に顔を中心に考えると、多くの症例では上顎第一小臼歯を抜歯し、上顎の前歯をできるだけ、中にいれ、反対咬合を大きくしてから手術を行う。

 

日大松戸では、非抜歯のケースが多く後退量も平均して5-6mmmとのことである。私のところではほぼ80%は上顎の小臼歯の抜歯で、後退量も8-10mmくらいとなる。明らかに私のところの方が下顎の後退量は多い。先日、北海道の先生から紹介された症例では、そちらの治療方針では、後退量がわずか3mmくらいで、術後も明らかに下顎の前突感が残るので、治療方針を変更して上顎小臼歯を抜歯して、後退量が8mmになるようにした。矯正歯科医院にくる患者の多くははっきり言って見た目の改善を希望している。下顎が出ているのが気になる人は、せっかく手術するなら、絶対に下顎がまだ出ていては満足しない。そのため、私のところでは反対咬合ではできるだけ、たくさん下顎が下がるように、上顎前突ではできるだけ下顎が前になるように治療方針を立てる。

 

顔から治療方針を立てる大学は、私論であるが、ファイシャルダイアグラムなどの図形分析をメインに診断しているように思える。私のところでは、外科的矯正の診断は全てファイシャルダイヤグラムと東北大学のCDS分析を併用して行っている。具体的に言えば

1.セファロトレースを行い、SNA, SAB, ANB, U1 to FH, FMIA、下顎平面角と一番重要なWitsの評価を行う。Witsの評価とは咬合平面にA点とB点の垂線をおろした点の距離である。上下の顎のずれを現す。

2.プロフィログラムをN原点、FH平面に平行に重ねて、大まかな顎骨のずれを見る

3.CDS分析では、通法通り、N点で重ね合わせるだけでなく、鼻先で合わせ、中顔面以下のバランスを見る。

4.上顎切縁と口唇閉鎖線との距離を測る

5.まず上顎の移動が必要かを調べる。4の距離が大きい、正面写真よりガミーフェイスがあれば、上顎の上方移動が必要となるし、正面からのレントゲン写真で咬合平面の傾斜が必要なら上顎骨を切って修正する必要がある。側方での咬合平面の傾きを時計回りに回転して下顎の移動量を増やすこともある。下顎の後退量が12mmを超える場合は限界なので上顎骨の前方移動を追加する。

6.その後、下顎の移動量を決定する。実際は、ここで模型と睨みっこして、この移動量ではいくら術前矯正を頑張っても無理な場合は移動量を修正する。

7.多くの場合、反対咬合では上顎のデンタルコンペンテーションを修正するために第一小臼歯を抜歯するし、逆に上顎前突では下顎の第一小臼歯を抜歯することが多い。反対咬合では下顎は非抜歯で術前矯正を行うので、大臼歯関係はII 級となる、上顎前突では上顎切歯の唇側傾斜もある場合は上下左右第一小臼歯、上顎切歯が前に出ていない場合は下顎の第一小臼歯を抜歯して、大臼歯関係はIII 級となる。

8.移動量を多くすると、上下大臼歯部の幅径を合わせるのが難しくなるので、ケースによっては術後にコーディネーションした方が早い。

 

以上が大まか当院の外科的矯正の診断法である。次回はもう少し詳しく説明する。



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