2025年6月15日日曜日

歯科矯正診断の難しさ

 



全ての病気を治すためには、まず検査をして診断をすることが必要である。例えば膝が痛いと整形外科に行くと、まず症状を聞き、視診、触診、X線検査、超音波検査、さらにはMRIなどの検査をして、診断し、その診断に沿った治療を行う。

 

歯科矯正においても、まず患者さんが来ると、詳しい履歴を聞き、まず顔をよく見て、上下の顎のバランス、唇の突出感などを見てから、口に中を見ていく。実際に治療をするとなると、口腔内写真、顔面写真、模型、レントゲン写真、場合によっては顎の運動を測定する。とりわけ診断に大事なのは、模型とレントゲン写真である。レントゲン写真では、口全体をみるパントモ写真と、顔を横から撮った側方頭部X線規格写真、正面から撮った正貌X線規格写真、場合によっては顎関節写真などを追加する。そして頭部X線規格写真(セファロ)については角度や長さを測り(セフォロ分析)、顎や歯の問題などを診断していき、パントモ、模型診断などと合わせて治療計画を作る。

 

1.セファロ撮影装置がない

セファロ写真を撮るためには、一般歯科医院に通常あるパントモ撮影機にセファロを撮る設備を加える必要がある。これはかなり費用がかかるので、インビザラインをしている先生の中にはセファロなしで治療をする先生がいる。昔、兵庫県のクレーム担当理事が言っていたが、セファロ分析なしで矯正治療をして、クレームがくれば、ほぼ裁判で負けるので示談を勧めていた。インビザラインで多いクレームの一つに治療後、口元の突出感が改善していないというのがある。セファロ分析では上下の前歯の理想的な角度というものが決まっており、この数字よりかなり大きいと、非抜歯では治療できない。セファロ分析なし、非抜歯で治療をすれば、これは診断ミスで、裁判ではまず負ける。

2.セファロ分析できない

セファロは立体的な像を二次元で表し、その中の仮想点を見つける作業がある。これにはコンピュータ画面上で点を入力する方法と、一旦、プリントアウトして、その写真をトレースして分析する方法がある。最近では画面上で直接入力する人が多いが、専門医試験では全て手書きのトレースの提出を求められるので、あまりひどい先生はこの時点で、不合格となる。実際にセファロ写真をトレースできるようになるまで、新人が矯正科に入局して半年くらいはかかる。さらにこのトレースを用いて角度、線分析を行うが、これを正確に解釈するにはさらに二年くらいかかる。矯正治療の難しさは、このセファロのトレース、分析を学ぶのに二年くらいかかる点であろう。

3.診断できない

セファロ分析により正確に診断されたとしても、治療法が限定されると間違った治療になることがある。矯正歯科専門医でも外科的矯正をしない先生がいる。上下の顎のずれが大きい、明らかな骨格性不正咬合の場合は、最初から外科的矯正と診断され、大学病院などの紹介することができる。ただいわゆるボーダラインケースでは、どうしても外科的矯正をしない先生は歯だけで治療する。専門医試験でもこうした症例が提出されることがあり、先生に聞くと、多くは患者が手術を拒否したので、仕方なく歯だけで治療したと答える。これは嘘であり、経験上、手術の話はしていない場合が多い。近年、上下の顎のずれ、これは前後、正面とも、がある場合は、外科的矯正を選択することが多い。以前、30年前までは外科矯正と言えば、骨格性反対咬合に限局していたが、近年は、上顎前突、顔面非対称のケースも外科的矯正で治療されることが多くなった。実感としては2倍くらいになった。なぜなら外科的矯正の方が、患者の満足度が高い上に、理想的な咬合を達成できるからである。

 

矯正歯科専門医試験官として何百症例を評価した結論としては、診断はほぼ収束する、つまり同じような診断になる。卒業して大学や習ったテクニックは違うので、多少は考えが違うものの、診断、治療法が大幅に違うことことは少ない。ただこれは二十年以上矯正専門医でやってきた先生の場合であり、逆に一般歯科の先生では、まずセファロがない、あるいはトレース、分析ができないことから、まず正確な診断、治療法が立たないと思う。インビザラインの一番の問題点は、その治療法ではなく、診断法で、このスタートの段階でミスをすると、患者にも大きな迷惑をかける。インビザラインを受けたいと思う人は、まず歯科医院で検査をして説明を受けたら、先生にセカンドオピニオンを受けたいと言って資料を要求して欲しい。セカンドオピニオンはリスボン宣言で患者に認められた権利で、これを断ることができない。それをもって矯正専門医を訪ねてほしい。多分5千円、1万円くらいの費用がかかるが、必要なことと思う。私のところに相談に来てもらっても良い。ただ実際セファロも撮っていない歯科医院では、矯正歯科専門医に診てもらうというと拒否する可能性が高く、その場合はそこでの治療はやめた方が良い。失敗する可能性がかなり高いからである。


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