2025年6月9日月曜日

趣味の終活 絵の場合

 

20号くらいが家で飾る限界か


先日、青森県立美術館に「描く人 安彦良和」をみてきた。さすがに原画は水彩であるが、油彩画のようにみごとの色彩表現ができていて、タイトル通りの内容となっていた。一般開催では、青森市の画家、はりやまたず子展が開催されていた。青森のお祭りを扱った郷愁豊かな作品が多く並び、楽しい雰囲気の展覧会であった。ネットで検索すると洋画家の奈良岡正夫さんの弟子のようで、数多くの展覧会で賞をとっている。ただ基本的には絵を売って生活しているプロの画家ではなく、セミアマの画家と考えて良い。

 

先日まで家の引っ越しで大変で、ようやく落ち着いてきたが、一番苦労したのは、絵の処分であった。母親も張山さんと同じで、セミアマの画家で、銀座で何度の個展をしたが、あくまでも趣味として絵を描いていた。展覧会に出すためにはどうしても30号以上、50号、100号の作品となる。大きな美術館会場である程度の存在感を示すためにはこれくらの大きさでないとだめであるからだ。ただこうした大型の絵は普通の家には絶対にかけられない。よほど大きな家でも30号(910727cm)くらいが限界で、それも洋画となるとそれに見合った額に入れるために重量も重い。

 

もちろん、こうしたアマチュアの画家だと県立あるいは市立美術館に寄贈を申し出ても断られ、買取り専門業者は買い取らない。さらに個人にあげようと思ってもまずサイズ的には無理ということになり、勢い、仮に寄贈するとなっても公共施設、病院、銀行などかなり限られてくる。こうしたこともあり、母親も30号を超える作品は元気なうちに顔がきく、徳島県の美馬市脇町の図書館、市役所などに寄贈してきたが、少し小さなものは兄、姉の家が狭いのですべて私のところに送ってきた。これを今回、処分することにした。全部で50点以上ある。一番、簡単なのはごみとして捨てることだが、兄弟が反対するので、まず全作品を写真にとりカタログ化して親類、知人、親戚に送り、欲しい絵を教えてもらう。その後、包装、これも大変だし、費用もかかるが、送っていく。それでも大型の絵は残っていき、さらに範囲を広げて商売をしているところなどをあたり、最終的には無理やりもらってもらったケースもある。知人の母親も同じようにアマチュアの画家で、そのまま捨てるのは気がひけるために、遺作展を開催し、希望者には持ち帰ってもらうように企画したが、それでも半分、とくに大型の絵は捌けずに、最終的には遺棄したようだ。

 

今回の母親の絵の処分でよかったのは、母親の絵は日本画に属するもので、額を外すと、くるくると巻けて、円柱の箱にたくさん収納できる点であった。嵩むのは額の方で、本体はかなりコンパクトにできる。そして額は近所のカルチャーセンターに持って行ったら、生徒さんの作品展示に使われ、喜ばれた。ただ洋画の場合はキャンパスになっているために額を外しても小さくならない。今回の「はりやまたず子」展をみて、そんなことを考えた。入り口の花には青森みちのく銀行頭取の名もあったので、早めに100号の絵は関係者に寄贈した方がよかろう。家族に任せるには途方もなく大変で、場合によってはゴミとして処分される覚悟が必要であろう。

 

その点、掛け軸は巻物なので、小さく、処分はたやすい。ただこれも一部の有名画家以外は、美術館はもちろん、買取業者も引き取ってくれず、最終的にはゴミとして処分される可能性が高い。和室、床間があった時代はまだ掛け軸も売れたが、いまは掛け軸の人気はほとんどなく、日本中から多くの優れた掛け軸が処分されている。今回、私の明治、大正、昭和の掛け軸のコレクションのほとんどがアメリカのシンシナティー美術館に寄贈されたが、これは友人がここのキュレイターでいるという偶然によるもので、多分、古道具屋にきてもらい査定してもらうと30点で1万円くらいであろう。

 

趣味で絵を描くひとは多いが、できたら50号を超える絵は処分が大変なので、描かないあるいは自分で処分することを勧める。日本、海外の美術館で100号を超える大きな絵を、お金を出して買ってくれる作家は、奈良美智などほんのわずかな画家だけであり、寄贈して受け取ってもらえるだけでもすごいことである。もともとプロの作家でも大きな作品は展覧会用で、売る絵はもっと小さい作品である。とくにお金持ちの多い、東京など大都市ではマンションにすむ人が多く、さすがに日本のマンションで100号をリビングにかけるのは厳しく、売れない。


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