ある歯科の経営コンサルタントのブログをみていると、昨今、歯科医院を開業するのは途方も無い費用がかかるようだ。一例として200坪の土地に60坪の歯科医院を弘前市に建てるとすると、土地に2500万円、建築費に7000万円、設備にユニット、CT、CAD-CAMなどフル装備をすると4000万円を超える。運転資金などもろもろで1.5億円はかかるという。
一方、歯科医院の一日の平均患者数をみていると20人程度、50人を超える歯科医院は弘前市の場合、歯科医師会員の10%もいかない。若い先生がいきなり開業してこの10%に入る確率は低く、歯科患者の特異性、同じ歯科医院に行き、浮気をしない、という点では平均を下回る可能性だってある。上記1.5億円を全部借金として、20年で借りたとすれば月に100万円くらいを返却しなくてはいけない。一日の患者数が20人ではつぶれ、最低30人、できれば50名以上の患者数が必要となる。
さらに歯科医院は閉院する場合、建物、設備で売ることは難しく、基本的には建物は壊し、設備は廃棄して土地のみとする。つまり1.5億円かけても、引退する時に残るのは土地代だけとなる。弘前のような地方都市では、人口減少に伴い土地価格は安くなるので、200坪の土地代金2500万円から解体費用300万円、設備廃棄代100万円、土地売買手数料を引くと、残りは2000万円となる。開業する時点で、引退する時は建物、設備がすべて無駄となることを頭にいれておく。
リスクの点を考えると、むしろ予想来院患者数から考えた方がよい。一日の患者数を平均の25名、月の収入を300万円とし、借金の返済は月で30万円がいいところであろう。20年で返済するとすれば総額で5000万円くらいが限界だが、ここから土地、建物、設備を揃えるのはかなり難しい。閉院した歯科医院を安く買う、賃貸の安いテナントを借りる、中古機器でスタートする、歯科ユニットは2台、奥さんも働き、人件費はできるだけ節約する、できれば技工は自分でする、税務、労務は自分でする、日曜、休日も働く(平日1日を休診日)、すべての処置を一人でやる(形成、印象、石膏注ぎ、ワックスアップ?)。もちろん従業員を雇うなら働き方改革に沿って勤務時間となるが、院長および奥さんはとにかく働く。
昭和40年代、歯科は儲かる時代で、歯科医数名を雇う大型歯科医院もこのころにできた。たとえば埼玉の渋谷病院はカリスマ歯科医のもと全国から多くの歯科医が研修して、一大拠点となっていたが、今は昔の勢いはない。私が知る限り大阪、神戸、東京、仙台などの同じような大規模歯科医院はすべてつぶれてしまっている。歯科の経営セミナーの指導を受けるような若い先生は、たぶんこうした大規模歯科医院、かせげる歯科を目指していると思うが、他分野の商売においても最初は小さな経営規模からスタートするのが鉄則である。私の父親は歯科医だったが、住み込みの助手と母親で診療し、晩年はワンオペで診療していた。兄も歯科医で、テナント、父親のユニットをもらって開業し、パートの受付兼歯科助手1名で診療している。私も歯科衛生士1名と家内(午後のみパートの受付)でずっと診療してきた。一方、友人の歯科医院では、来院患者が1日100名を超えるが、従業員が20名以上いて、月に1000万円の売り上げがあっても院長の収入は少ないという。
そもそも歯科医院の経営規模は、普通のところで歯科医、受付、衛生士の3あるいは4名、これは近所のパン屋、魚屋、惣菜屋の規模であり、この規模で経営コンサルタントを雇うところはない。少なくとも一般の商売で、経営コンサルタントを雇うのは10名以上、一億円以上の売り上げのところに限られる。歯科医はプライドの高い生き物であるが、零細企業は商業、サービス業で従業員が五人以下と定義されており、多くの歯科医院は零細企業と言える。さらにいうなら年中、定価の70%引きの店という素晴らしい特権がある。現在の健康保険制度では、患者の窓口負担は30%、さらに子供医療費は無料のところが多い。あるものを70%引きでお客に売って、残りの70%は国が払ってくれる、これほどおいしい商売は他にない。できるだけ節約して、普通にすれば何とかなる仕事である。
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