2009年1月27日火曜日

西原理恵子 この世でいちばん大事な「カネ」の話




 西原理恵子さんのマンガは以前から好きで、よく読んでいます。「サイバラ茸」シリーズもおもしろいのですが、何でも体験シリーズ「できるかな」シリーズ、とくに脱税できるかななどが入ったVol3は笑えます。マージャンやFX投資で数千万円を平気で使ってしまう金銭感覚の持ち主が「この世でいちばん大事なカネの話」を書いたとなると、いったいどんなことが書かれているか、興味があります。

 一瞬あのサイバラがとち狂ったのか、おまえのようないいかげんな女がカネのことでひとに説教たれるのかと思ってしまいましたが、ところがこの本は中高校生向きのいたってまじめな本です。カネにまつわる自伝とも考えられる内容で、職業とカネとの関連、最下位からの戦い方などユニークな考え方で、就職活動をしている長女にも読ませてやりたい内容です。あらためてこの人の才能に驚きました。かなり幅広い層に売れているようです。

 「外に出て行くこと。カネの向こう側に行こうとすること」の章では、カンボジアのスモーキマウンテンで働く子供たちの姿を描き、「そうやって外に出て、動き出すことが希望になるの」、「希望を諦めてしまうことを、しなかったから」、貧困で劣悪な環境の中でも希望をすてないことがそこからの脱出の道であることを訴えています。おもわずアウシュビッツ体験者の心理状況を描いた名著「夜と霧」を思い出してしましました。30年くらいに読んだ作品なのであらかた忘れましたが、アウシュビッツの悲惨な状況の中でも希望と愛を失わなかった人間のもつ尊厳性を重ね合わせて考えてしまいました。ただアウシュビッツのユダヤ人やスモーキマウンテンの子供たちの心のよりどころには、家族や妻といった愛情をもてるひとがいたのに対して、現代人の不幸はそういった深い愛情をもてる対象が欠如しているのかもしれません。西原さんも子供ころはずいぶん貧乏で苦労もしたのでしょうが、周囲の人々に随分助けられたでしょうし、何より母親、夫や友人への愛情が絶望から救ったのでしょう。この本から「夜と霧」を連想するひとは少ないと思いますが、両者には共通の楽観的な人生、人間への愛情は含まれています。

 話しが変わりますが、以前現代美術の旗手奈良美智さんのAtoZの展覧会で、ふといたずらがきのような作品を見ていると、何と西原さんのキャラクターとそっくりなものを発見しました。どうも西原さんの作品を奈良さんが拝借したのでは?と思ってしまいました。そうであれば、美大で常に劣等生であった西原さんも優等生の奈良さんと肩を並べたと思うのは、ちょっとほめすぎ。

 ただこの作品はすべての文字にふりがなをつけ、語り口もやさしいのですが、中高生では内容についていくほど経験がないため、少し難しいと思います。これから就職を考えている大学生や仕事で悩んでいる若い人に一読をお勧めします。またフランケルの「夜と霧」や神谷美恵子 『生きがいについて』は若い人にも人生のうちで一度読んでほしい作品です。

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