2009年5月7日木曜日
自費治療と保険治療の違い
一般歯科では保険治療の中に自費治療があるのに対して、矯正歯科では自費治療の中に保険治療がある構図です。口蓋裂患者の矯正治療と顎変形症の手術の準備のための矯正治療は保険が適用されますが、それ以外はすべて自費治療です。それに対して、一般歯科ではインプラントや前歯部の一部の治療などの対しては自費治療となりますが、それ以外はすべて保険でカバーされます。矯正医の立場から自費と保険の違いを考えます。
日本の医療は世界で最も優れたもので、ほとんどの疾患が保険でカバーされており、また一か月の医療費がある一定以上の分に関しては後で返却される制度もあります(高額医療制度)。もともとの医療費自体が世界的にも低く、だいたい欧米の相場の1/3から1/10くらいの安価ですが、さらに自己負担金がその30%とさらに安くなり、アメリカ人からすれば天国みたいな国です。
同様なことは歯科でも当てはまり、アメリカで歯の根っこの治療をしてもらうと1本で10万円くらいかかりますが、日本では自己負担金はその1/50になると思います。高くておいそれと治療に行けないのでアメリカ人は予防に熱心なわけです。
ただ日本ではあまりに保険治療が一般的になっているため、患者も歯科医も自費治療に対する認識がはっきりしないように思えます。例えば歯科医が患者に自費治療を勧める場合も「保険の材料より金を使った自費治療の方が長持ちしますよ」とか、「前歯の治療はセラミックを使った自費治療の方がきれいですよ」というように材料面からの説明をします。あるいは自費治療の方が丁寧な治療をするとかいった説明をします。
これは、説得力にかけます。というのは材料の差であれば金とパラジウム合金(保険)の差を治療費で説明しきれませんし、材質的にそれほど違いはありません。また同じ歯科医が保険と自費でそれほど丁寧さに差をつけることは実際問題できにくいものです。保険だからといっていいかげんに、自費だからといって丁寧にとうまく使いわけることは難しいものです。今のように歯科医が過剰な状況では、昔ほど忙しくもなく、保険治療でも十分に時間をかけられます。
それでは自費と保険の違いは何だと言われると難しいのですが、おそらく払う金額に付随する責任の違いのような気がします。根っこの治療で1本10万円も支払う場合、患者も1年くらいで悪くなると相当怒ると思いますし、訴訟大国のアメリカでは訴訟される可能性もあります。これは歯科医側からも言え、多くの検査を行い、十分に説明し、細心の注意を払い治療し、患者に満足してもらわなければいけません。また治療後フォローもきめ細かく、また再治療が仮に必要な場合は無料でしなくてはいけないかもしれません。両者とも高い治療費に見合う緊張した関係が成立します。一方、保険では治療費が安いため、その緊張感が少なく、十分な説明なく治療が行われるということも起こりえます。現行の保険費用はあまりに安すぎて、これらの手間までその料金に含むのはどだい無理だと思います。
保険と自費の費用には圧倒的な差があるため、多くの患者さんは当然保険を選択します。そのため歯科医からすれば材料の差だけからしか説明しにくいことになります。実際、一般歯科では入れ歯や被せものなどの補綴の分野でしか自費治療はないでしょう。抜歯や先に述べたような根っこの治療では材質の違いがないため保険と自費の料金の圧倒的な差を説明できないからです。まさに自費にとっての一番のライバルは保険治療なのです。
これに関連して、日本の保険制度ほど優れたものは他国になく、一部の外資系保険会社はアメリカのような民間保険への転換を画策していますが、これはとんでもないことです。日本では健康保険料を払っている限り、万人が医療を受ける権利を有しており、何もテレビで宣伝しているようなガン保険などに入る必要はありません。心臓移植はアメリカでは2000-4000万円かかりますが、これが日本では高額医療制度を使うとわずか7万円くらいですむのですから、こと医療に関しては非常にお得な制度と言えると思います。
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