2025年5月5日月曜日

五百旗頭眞 先生

 



5/4NHKスペシャル「シリーズ未完のバトル 秩序なき世界 日本外交への遺言」は面白かった。昨年、亡くなった五百旗頭眞先生と歴代首相との関係、今後の日本の外交の指針を多くの画像と音声で丁寧に描いていた。番組自体は、六甲学院の同窓会フェイスブックで案内されていたが、NHKさすがという構成だった。

 

五百旗頭先生(いおきベと読む)は、六甲学院のかなりの先輩で、番組に登場していた息子さんの五百旗薫先生は確か後輩であったと思う。神戸大学教授から、小泉首相の要請で2006年から2012年まで防衛大学の学長をしていた。リベラルな学者がどうして防衛大学にいったか不思議であったが、歴代の学長を見ると旧軍時代の反省からかリベラルな学者が学長になるようだ。五百旗頭先生の次の学長はテレビにも出演していた國文良成慶應大学教授である。

 

五百旗頭先生はコンピューターがどうも苦手のようで、時の首相への提言は全て手書き文のファックス送信であった。つい最近の岸田首相の時もこうしたやり取りで、首相と連絡していたようで、同じような話は何度か聞いたことがある。安倍首相の補佐官といえば、菅官房長官であるが、実際の秘書の役割は北村滋国家安全保障局長で、この人は安倍首相の長期政権を陰から支えた。五百旗頭先生のファックスは、まずこの北村内閣情報官が見て、それを首相に持っていき、意見を交わすという段取りである。安倍首相によく手紙を出すという知人も同様な手続きで首相のもとに手紙が配達されるという。歴代の首相には、こうした最側近のブレーンがいた。ちなみに今の石破首相には北村内閣情報官のような優れたブレーンがいないのか、政策に一貫性がない。拓殖大学の佐藤慎一郎先生の逸話に中にも、こうした話がある。中国専門家の佐藤先生は、文化大革命中の現状を中国からの難民への直接の聞き取りから、新聞報道と違い、中国がひどいことになっていると警告した。月に一度、中国問題についてのレポートを首相官邸に持って行っていた。機密漏洩という点でも文書を直接持って行く方が安全だったのであろう。こうしたレポートは首相側近のブレーンがまず読み、それを首相に説明し、報告した。安岡正篤なども、面談と手紙で首相の政策決定に力を及ぼした。

 

日本は中国への侵略という負の面を常に反省するが、中国は日本の戦後の平和主義と、鄧小平の改革開放政策への日本の協力、WTO参加への協力、などを評価すべきで、こうした両国の関係の上に、日中戦略的互恵関係という提案は極めて現実的な選択肢である。日本では、大学の学者が実際の政治、あるいは政策に直接参加することは少ないが、欧米ではそうしたことが普通であり、ある時はハーバード大学の教授であったが、政権のブレーンに入り、政権が変わるとまた大学に戻るというのが普通にある。五百旗頭先生はこうした海外の政治学者とも交流が深く、政治への関与があったのだろう。

 

明治維新後の日本の外交は、欧米主義と大アジア主義に揺れた。世界の大国を目指した欧米主義が基本であり、弘前出身の外交官、珍田捨巳も国際協調、欧米中心主義を日本の外交骨格とし、昭和天皇と牧野伸顕とタッグを組んで、ロンドン海軍軍縮くらいまでは何とかその路線で進めていたが、次第に軍部の力が強くなり、日本を中心としてアジア諸国と力を合わせる大アジア主義が勝ってきた。牧野こそが昭和天皇の最側近で信頼がおけるブレーンで、彼が昭和10年内大臣を退官してからは、昭和天皇以外は、軍部が主導する大アジア主義、国粋主義となった。

 

五百旗頭先生の主張と珍田捨巳、牧野伸顕の主張は、日米安保を除いて、かなり近いもので、基軸を欧米に置きながらアジア、隣国との仲良くしていく。これで中国がベトナムに近い感じで民主化していけば理想的で、現実的には北朝鮮、中国という独裁社会主義国とは五百旗頭先生が唱える互恵関係で合わせていくのだろう。

 

五百旗頭先生は80歳でお亡くなりなったが、ロシアのウクライナ侵攻、トランプ大統領の二期目の政権、習近平の独裁中国など、多々の問題を日本は抱えており、歴代総理の中でも最低な石破首相をもう少し支えてほしかった。残念であるが、歴代首相の列席、天皇陛下からの祭祀料、儀仗隊の派遣があったのは故人にとって最高の名誉である。


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