2025年11月23日日曜日

佐藤慎一郎先生の50年前の教え

 



 弘前出身の拓殖大学、中国学者、佐藤慎一郎先生は、あの文化大革命、毛沢東礼讃の時代、1人、その本質を見抜いた人物である。彼ほど中国と中国人を愛した人物は少なく、何度も中国人に助けられて生き残った。さらに彼の誠実な人柄は多くの中国人に愛され、語学も堪能なことから、政府発表とは異なる情報源から現代中国の真実を見ようとした。以下の文は、ラクーンのブログに掲載されたもので、佐藤慎一郎先生の講義をテープにとり、それを文字起こしした。その内容はほぼ50年たった今でも新鮮である。高市首相をめぐる今日の日中関係も見ても、中国政府関係者はこの北京大学の先生、郭沫若と同じと考えればよく、中国共産党の体質というのは、あれだけ経済が発展しても全く変わっていないのに驚かされる。是非、全文を読んでほしい。

 佐藤慎一郎先生は、岸内閣から30年以上に渡って総理に報告したが、そのレポートは国政の参考になったと思われる。高市内閣では、松田康博東大教授(非常に優秀)のような軍事専門家もブレーンとして必要だが、中国の古典をきちんと学んだ佐藤慎一郎先生のような存在もほしいところである。できれば中国政府に対して、中国古典の的確な引用で返答してほしいところである。

 

ラクーンのブログ

http://racoon183.cocolog-nifty.com/blog/2011/05/19766-3d82.html

 

さて、昨年、私は香港へ行きました。香港で北京の大学の先生と会いました。私がこの大学の先生に話を聞いて、三日間、ノートとりました。朝から始まって、お話をノートした。僕がこの大学教授に「先生、あんたは郭沫若をどう思いますか?」とこう聞いた。そしたら「あの人は素晴らしい学者です。毛主席も信頼しています。」とくる。「おーちょっと待て、あんたね、ここはね、北京じゃないよ。ここは北京じゃないの、あんたを誰も監視していないの。ここは自由社会という自分で信じたこと自分で考えたことそのまま言っていいんだよ。しゃべって大丈夫な自由社会ですよ」こう言った。

そしたらね、「すみません、ついその癖がでました。私たち北京におればね、なんか質問されれば、まわりをみて皆はどういうだろうということをまず考えて、それからその上を行くようなことを、嘘を言うんです。つい癖がでて、つまらんことを言ってすみませんでした」というから、「いや、誤る必要はないよ、あんたは郭沫若をどう思いますか?とあんたの本当の気持ち、僕は聞きたいんだ」といったら、彼いわく、「あのくらい悪い奴はおりません、あれは悪党です。あんなずるい奴おりません。風をみて舵を取るけしからん奴だ。あれくらいずるい奴ありません」。「どうずるいの?」と聞いたら、「いや、わたしたち北京の大学の先生たちは、文化革命始まる前までは、郭沫若という人を尊敬しておりました。ところが文化革命が始まったら、これは自分にとっても危ないなあと、この人頭が良いからすぐわかった。それで、まだ労働者や学校の紅衛兵が彼を呼びつけてもいないのに、彼自ら出て行って『私はいままで、何千何万の論文を書いたけれども、あんなものは論文に値しない、全部焼き払ってくれ。私は今日から毛主席の一年生となって毛沢東思想を勉強します』とこういった。そうして皆に謝って、まだ誰も彼をぶんなぐらないうちに自分からでんとひっくり返って『さあ、殴れ』とこう言った。『俺みたいな悪い奴、さあ殴ってくれ』とこう言った。このね、狡い、狡さにはかなわない、こうやって彼は助かった。このずるさにはね我々唖然とした。それ以来、みんなこの野郎と思って、誰も彼を尊敬するものはおりません」。「わかりました。あんたはそうおっしゃるが、あなたは去年二月まで、北京大学に長く働いていらっしゃいましたね。長く働いていられたのは、あの共産党の世界でどういう態度をもってあなたは生きてきたから、働くことができたのですか?郭沫若けしからんというのは、わかりました。それなら、あなたはどういう態度で生きてきましたか?」こう尋ねた。そうしたら、彼しばらく下を向いておった。「そう言われると恥ずかしいかぎりです。わたしたちはあの郭沫若に唾でもひっかけてやりたい気持ちですが、あの強力な共産党の中で生きるためには、郭沫若の生き方以外に生きる道はないということを教えられました。それで、私たちも郭沫若に学んで、あの狡さを見習って今日まで生きてまいりました。そうしなきゃあとても生きられませんでした。」と白状しました。

それで、私はその話が本当か、去年あった革命委員会の共産党員に聞いてみました。こういう話を聞いたけど、あなたはどう思うかと問いかけました。「いや佐藤さん、それは無理だよ。あの共産党の世界でね、そんな自分の意見なんか言って生きられるもんじゃない。一日だって命がない。正直に言ったら絶対駄目です。なぜなら、私も嘘八百でそういった芝居をやりながら生きてきましたから。とにかく、その場その場の芝居やるしか我々は生きる方法がないんです」とこう答えました。

良く聞く話ですが、日本人の旅行者が北京に行き郭沫若に会って、郭沫若はこんなことを言っていたというようなことを報告しています。誰も信用しない奴の話しを聞いてきて、この嘘八百の話をとくとくと日本で発表しております。それをまた読む奴が、さすがは偉い学者だと言って感心しているかどうかはわからんけれども、じっくり読んでいるというのが現状です。裏の裏を読まないと、何が本当で、何が嘘なのかわからないでしょう。そういう状態ですから、大陸におけるあらゆる現象はすべてその場その場の芝居であると私は判断しています。中国語にホンチャンソウシ(逢場作戯)という言葉があります。その場その場に合わせて芝居をやる、こういう言葉がありますが、これが現代の中国人の生き方であろうかと思います。本当のことを言えない、こういう世界であると私は信じております。


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