2025年11月19日水曜日

リタイヤとは 楽しい引きこもり、楽しい隠遁生活

 



今年の1220日の診療をもって診療所を閉院する。その後、1か月くらいで院内の備品を整理して完全引退となる。半年くらい前から古いカルテや模型などを業者で処分してもらっているが、個人情報、医療廃棄物などの規制があり、かなり費用がかかる。幸い、歯科用ユニット、レントゲンなどの大型機械は処分、廃棄するところも決まり、その他の機器類も寄贈先も決まった。院長室には、膨大な矯正歯科関係の本、雑誌、論文があり、この処分をしているが、最終的には全て処分することにした。この5月に一戸建てからマンションに引っ越してきたので、スペースが全く不足し、矯正歯科関係のものをおくところがないのが理由である。

 

古い論文や本を紐で縛り、処分すると、今まで歯学部に入学してからの50年以上の自分の歴史を全て捨てるような気がして寂しい思いがする。これからは先生と呼ばれることもなくなるし、職業欄は“歯科医”ではなく、“無職”になるのだろうという思いもある。歯科医というだけで世間的には得をしたことも多かったが、そうした特権もなくなる。ただ矯正歯科という非常に期間のかかる治療を行う職業では、辞める時を自分で決めなくては、患者さんに大きな迷惑をかけるため仕方ない。友人、知人、あるいは患者さんからもどうして辞めるのかと聞かれることが多く、さらに病気説が流れたりもする。

 

 

矯正歯科の場合、通常のマルチブラケット装置でも2年間の治療が必要だし、子供の場合は、一期治療、二期治療も含めると10年以上かかることも珍しくない。そのため閉院にあたり、子供の治療は5、6年前から新規患者の受け入れはやめ、2年前から全ての新規患者の受け入れをやめた。一応、通常の患者の動的治療(マルチブラケット装置による治療)は全て終了できそうだが、保定終了までは診ることはできず、近くの先生に紹介している。唯一失敗したのは、外科的矯正の患者で、術前矯正が終了して口腔外科へ入院予約をしても、すぐに手術ができず、長い場合、半年以上のタイムラグが起こる。そのため数人の患者については、術後矯正が終了できす、動的治療中の状態で転医することになる。申し訳なく思っている。

 

歯科医の引退というと、通常の退職のない職業、個人商店、飲食店などと同じで、健康上あるいは経営上の問題から辞める。うちの親父は85歳くらいまで歯科医をしていたが、最後の方は1日の患者数が4、5名となる、ワンオペで診療していたが赤字となったので、やめて引退した。従業員が居れば、もっと赤字になる時期は早い。

 

先日も、友人でリタイアについて議論した。健康で、充実した老後を送りたいという声が多く、診療所を小さくして自分の理想の歯科診療を行いたいという友人もいたが、それはリタイヤしないということだとからかわれていた。他には、旅行に行ったり、ボランティア活動をしたいと友人もいたが、私はリタイヤとは、何もしないことだと思う。もっというと世間からは忘れられた存在になり、葬式には家族と少数の友人しか来ない存在になることかと思う。不思議なことに現役時代はあれほど、いろんな場所で頻回にあった先輩歯科医に、リタイア後は全く会わなくなる。リタイヤしたから家にずっといるわけではないと思うが、全く会わなくなる。リタイヤとはこういうものかもしれない。忘れられていく存在なのだろう。

 

アメリカ人に聞くと、リタイヤして家でビールを飲んで、好きな音楽や映画を見たり、プレステでゲームをしたり、釣りをしたり、何もしないことがリタイヤだという。朝起きる時間も決まっておらず、寝るのもいつでも良い、おそらく幼稚園に入学した4歳くらいから、引退するまで規則的な生活をしてきたので、全く制約のない生活をするのは初めてと言っても良い。参考になるのは、引きこもりの人たちの生活である。引きこもりの楽しい点についてAIで調べると、「映画、ゲーム、読書、アニメなどの家で完結する趣味や、オンラインゲーム、YouTubeSNSなどのインターネットを介した活動、創作・学習としては料理、お菓子作り、塗り絵、立体パズル、語学学習、自宅での筋トレが挙げられ、さらに外出する際の楽しみとしては、自然に触れられる公園や河川敷、静かに過ごせる図書館や公民館、気軽に立ち寄れるショッピングモール、ネットカフェ、スポッチャのような複合型レジャー施設を利用する。」としている。これは参考になる。このうちあまりしたことないのが、ゲーム、料理、お菓子作り、塗り絵、立体パズル、筋トレなどで、ネットカフェやスポチャなども行ったことがない。シニア年間パスポートもあるらしい。ただ年寄りができそうなのはカラオケ、ダーツ、卓球、ビリヤード、ゴルフくらいか。孫と行くのはいいところかもしれない。また常連の飲み屋というのもないので、これを開拓する楽しみもあろう。

 

ここまで書いていて、これはひょっとすると中国の文人の理想、隠遁生活のことかもしれない。リタイアとは、よく言えば隠遁生活かもしれない


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