2025年11月12日水曜日

日本に革命をと言っていた人は、今

 


私が東北大学に入学したのが1975年で、その頃はまだ学園闘争の末期であったが、活発な活動が行われ、教室がロックアウトされ、授業がなくなったり、教授に三角帽を被せて自己批判はさせたり、図書館前ではヘルメット、角棒でデモの練習をしていたりしていた。朝から教養部では、全学連の連中が“革命”、“反帝国主義”、などのオドオドロしい言葉が拡声器で流され、ビラを配る。当時、すでにほとんどの学生は、こうした学生運動に関心はなく、むしろ運動に夢中になっている連中を馬鹿にしていた。個人的に、そんなに革命が好きなら、大学など辞めて、中国、ソ連、北朝鮮など社会主義国へ行けばと思っていた。

 

若い頃の議論はよほど危険であり、革命と叫ぶなら、結局は革命に参加しろという結論になり、さらに理論を進めると爆弾を作って国会議事堂を爆破しろという極論までいってしまう。萩の松下村塾の吉田松陰はまさしくそうした人物で、生徒に狂えと火をつけ、生徒は師匠の言葉に追い詰められ、死んでいく。この歳になると、もし人から革命、革命というなら、お前は革命に参加しないのかと追求されても、あくまで言葉だけだと開き直れるが、若い時はそうできない。太平洋戦争末期、国を愛するなら特攻に参加しろという論理も、同じようなものである。

 

個人的には当時、学生運動に積極的に参加していた人、今は75歳以上になると思うが、今はどういった考えになっているのかが非常に興味を持つ。藤田省三、「転向の思想史的研究」は、戦前の共産党員がいかに転向するかという主題で、内容は忘れたが、意外に共産主義から真逆の右翼思想に向かい、積極的に軍部に協力する人が多いことに驚いた記憶がある。1960年、1970年代に安保闘争、学生闘争にどっぷり浸かった人々は、今どうしているのか。

 

そうした疑問に答えてくれる書が、岩波現代文庫の「原点 The Origin 戦争を描く、人間を描く」(安彦良和、斎藤光政、2025)である。著者の安彦はガンダムで有名なアニメーター、漫画家で、弘前大学在校時に学生運動にはまり、最終的には退学処分された。1947年生まれ、現在、77歳で、学生運動真っ盛りの世代である。この本では当時の学生運動の仲間との対談など、著作物ではなく、対談形式のため、本音が聞けて面白い。結論から言うと、その後の生き方は人それぞれであるが、安彦については、遠い過去の若気の至りという境地になっているように思える。それほど懐かしい思い出でもなく、今に思えば日本に革命と言っても誰もついてこなかったという反省もあるし、また心理的に深く傷ついた記憶と言うものでもない。今は皆、普通のおじさんになっているだけである。ただ一部の仲間は、その後、武力闘争、パレスチナ解放人民戦線へと革命路線を貫く人もいる。多くの人は当時のことについて沈黙している。

 

こうした感覚は、うちの親父の世代でも見られるもので、大正生まれの世代の多くは、否応なく戦争に参加し、多くの仲間が亡くなった。子供の頃に会った父の知人を思い出しても、特攻隊の生き残り、ラバウル航空隊の飛行士、ニューギニア、インパール作戦の生き残り、過酷な戦争経験をしているが、皆、普通のおじさんで、戦争中のことは戦友会以外で語ることはない。親父の場合、中国北部に3.5年間、その後、ソ連の捕虜収容所に3年間いた。この6年間のことは、断片的に聞いたが、多くは語らなかった。同じように学生運動をしていた人々も、すでに50年以上前のこともあって、ほとんど語ることはない。

 

私の場合、高校生の頃に毛沢東の文化大革命に憧れたこともあったが、その後、徐々にその真実が明らかになり、そして大学2年生の頃に、親に無理を言って外国人に解放されたばかりの中国に旅行に行った。そこには無惨な文化大革命の傷跡が残り、案内のガイド、ほとんどが文化大革命中は下牧、の口からは文化大革命の悲劇を聞いた。そして京都大学の竹内実教授、朝日新聞、左翼を恨んだ。彼らのような知識人が、あれほど礼賛していた文化大革命、そして造反有理というスローガンのイカサマを思い知った。ただの毛沢東の権力闘争の手段であり、若者の暴力だけであった。広州、北京の博物館の掛け軸は破られ、飾られていた。現在、中国はいまだに大躍進と文化大革命の犠牲者、おそらく数千万人を認めていないし、朝日新聞、左翼もそれには触れない。一方、テルアビブ空港乱射事件で26名を殺した岡本公三もまだ生きているし、いまだに支援者がいるという。12名の仲間を殺した連合赤軍メンバーも服役、逃亡している。学生運動そのものは、誰かに多大な迷惑をかけてなければ、忘れてもいいものかもしれないが、犠牲者、殺人が出たとなると、彼らこそ、公の場に出て、総括と自己批判をすべきであろう。一種のカルト、宗教のようなもので、テロ、戦争に向かう同じ方向性を持つものなので、藤田省三、「転向の思想史的研究」のような研究も必要かもしれない。安保闘争、学園闘争の当事者もすでに高齢となっており、その声を聞くのも今しかなくなってきている。


「原点 The Origin 戦争を描く、人間を描く」(安彦良和、斎藤光政、2025)はお薦めである。




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