2008年9月24日水曜日
姿勢とかみ合わせ1
欧米人は背筋を伸ばし、立ち姿、歩く姿もかっこいいと感じるひとも多いと思いますが、これは教育によるところが多く、子供の頃から姿勢をよくしなさいと言われているからでしょう。顔が前に出ている不良姿勢は、前方頭位(Forward head posture 写真上)と呼ばれます。なじみのない難しい言葉です。検索すればわかりますが、欧米では多くのHPで取り上げられており、日本と違い、関心の高さがわかります。
この前方頭位は、肩こり、腰痛の原因になったり、老化の現れととらえられたりしますが、実はあごの発育、かみ合わせにも関連します。やってみるとわかりますが、あご、首を少しずつ前に出すと、首の後ろの筋肉が緊張するだけでなく、口も少しずつ開いていくのがわかります。この姿勢でいると、口が開き、呼吸も自然に鼻ではなく、口で呼吸するため、下あごは後方に回転していきます。咬む力の強いひとはそれでも、咬む力によりあごは前方へ回転しますが、前方頭位では強くは咬めないのでますます後方へあごは回転します。その結果、前歯が開いてきたり、あるいは出っ歯になったりします。日本人の上顎前突(出っ歯)の特徴は、あごが後方に回転した、こういったケースで、咬む力も弱いため、矯正治療でもなかなく、かみ合わせをうまくまとめることが難しく、また後戻りも多いと思います。
正常な姿勢の子供たちと前方頭位の子供たちのあごの形を比較した研究結果が写真中のものです。点線の正常姿勢の子供たちに比べて前方頭位の子供たちのあごは上あご、下あごとも後方に回転しています。この研究は第38回日本小児歯科学会(札幌 200.6.22)で「姿勢と顎発育の関連のテーマ」で発表したものです。大会場の朝の発表でしたが、4,5人の教授から質問を受け、反応は良かったと思います。
鹿児島大学にいた頃、中国から顧先生が大学院留学生として来ました。本当に頑張り屋で、教授とも話し合い、何かテーマを探していたとき、不良姿勢があごの発育にどう影響するか動物実験で調べられないかということになりました。1950,60年代の古い文献が少数ありましたが、ネズミの前足を切断し、人工的に二本足にすることで姿勢を変えるといった残酷なものでした。こういった動物を虐待する実験は、とてもじゃないが、欧米雑誌には掲載されないため、顧先生が工夫したのがネズミを狭いゲージで飼い、背中を抑えることで頭の位置を上向けにさせるものでした。ストレスが多いため対照群との体重を合わせるのは難しかったようです。この研究は、「Effects of altered posture on the craniofacial growth in rats: A longitudinal cephalometric analysis 」(
日本矯正歯科学会雑誌 55:427-444.1996)と「Muscle fibre composition and electromyographic features of cervical muscles following prolonged head extention in growing rats」(
European J. orthod 25:21-33,2003)にまとめられました。結果は、頭の位置が上向きになったネズミは上あご、下あごとも後方に回転していました。直立している人間ではもっと影響は大きいものと思われます。顧先生は今はシアトルのワシントン大学でがんばっているようです。おそらく姿勢とあごの関連を調べた動物実験はその後も出ていないようなので、今後とも重要な研究と位置づけられるでしょう。
動物実験でもこのような結果がでたので、姿勢を変えることであごの発育、かみ合わせも変わるのか、人間ではといった研究が考えられますが、これがむずかしい。脊椎湾曲の矯正のためにコルセットを使っている子供を研究するとか、むち打ちのためのコルセットを長期に使っている人のかみ合わせの変化を見るとかいったアイデアはありましたが、実際に研究するのは難しいと思われます。私のところでも、そういった患者さんに姿勢を良くするように指導もしていますが、なかなか証明は難しいと思います。次回、姿勢を良くする方法について書いてみたいと思います。
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