2008年11月1日土曜日

石油の支配者




 新書は、内容の薄いものと濃いものにはっきり分かれるが、今回紹介する浜田和幸著「石油の支配者」(文春新書)は後者に属する。少し前、ガソリン価格が急に高くなったことは記憶に新しく、日本中に大きな混乱を招いた。供給先の中東に戦乱が起こり、供給が減った訳でもなのに、いきなり価格が高騰した。なぜという疑問から、本屋で何気なく買ったものだが、この疑問に親切に答えるばかりでなく、さまざまな私のとって新たな知見を与えてくれ、実に内容の濃い本であった。

 内容については本書を読んでもらえばわかるが、結論からすれば、ガソリン高騰の犯人は投機マネーとドル安ということである。1バレルの原価は、おおむね10ドル以下、アフリカの場合は、50セント以下であり、産油国はこの価格以上売れば、利益がでる。現在、世界中の投機マネーの総額は、一京7000兆円という信じられない額にのぼり、これは世界中のGDPの400倍という数値になる。この途方もない金が利益の上がるところに動いていく。そのごくごく一部の金が、長期保有を意図した原油先物市場に流れ込んだ。インデックス・スペキュレータと呼ばれる投機筋が使う当てもなく買った原油は、2008年5月の時点で11億バレルという。同じような手法で彼らはトウモロコシや小麦も買い占め、すでにアメリカの需要の2年分の小麦を買い占めている。ただこの買い占めは、投機マネーからすれば、25の主要商品を扱う先物市場全体で1800億ドルに過ぎず、全体の投機マネーのごくごく一部でしかない。膨大な金が世界中を駆け巡り、あまりの巨大さのため、ちょっと方向が変わるだけで、世界中が大混乱する時代になったといえよう。

 もうひとつの原因として、アメリカドルの下落が挙げられる。原油の取引についてはドル建が原則である(ペトロダラー)ため、ドルの相対的価値が下がれば、それだけ原油が高くなる。アメリカはすでに物を作って売る国ではなく、金を売る国になっているため、常に金が入らなけらば回らない国になっている。莫大な財政赤字の上、今のような金融崩壊になるとドル暴落の可能性も高い。その萌芽としてドル下落が原油価格の高騰に影響したとも言えよう。

 本書で最も興味深かった点は、石油は化石燃料で有限であるという説(ピークオイル説)に対して、石油は地球内部から染みでる汗のようなものであり(原油自然発生説)、原油は無限にあるという「原油無限説」が紹介されているところである。これは全く知らなかった。もしこれが本当なら、すべてのエネルギ政策が無意味なものなる。全く荒唐無稽な説のように思えるが、ロシアでは旧ソ連時代からまじめに研究されており、近年になり超深度掘削技術が開発された。ロシアの枯渇したと言われる61の油田のうち37の油田で再び生産が開始され、今やロシアは産油国となった事実を見ると、あながちうそとは思われない。実際にメキシコ湾の海底油田でも完全に枯渇したと思われる油田を再開発したところ、最盛期の日量に達し、埋蔵量も6000万バレルから2億バレルに拡大されたという事例もある(ユウジン・アイランド油田)。

 そういった観点からみると我が国でも、写真のような資源探査船が登場してきている(写真は資源探査船しげんとちきゅう)。「ちきゅう」にいたっては排水量は59.500トンもあり、最初聞いたときは桁が間違っていると思ったほどだ。何しろ旧海軍の大和よりは少し小さいくらいの重さで、たかが海洋研究のためによくもこんな船を知らぬ間に作ったなあと思ったが、海洋国家日本のエネルギー政策からすれば重要な切り札となろう。高校地図で確認すればわかるが、日本は土地こそ狭いが、東西南北の国境(島)を結ぶと、世界で6番目の管轄水域をもつ国である。やりようによっては海洋資源の活用がまだまだできそうであり、あまる語られないがひとつの国策となっているのであろう。

 他にも携帯電話一台につき、0.03gの金が含まれており、うまくリサイクルすると日本都市鉱山から発掘される金の量は6800トンで南アフリカより多いといった記述も含めて、大変充実した内容の本である。世界金融危機の理解にも参考になる。

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