2022年3月2日水曜日

「弘前歴史街歩き」 発行しました。

  

「弘前歴史街歩き」を発行しました。いつも目にする身近な場所、建物の歴史を知るにはいい本だと思います。近くの本屋で購入してください。定価1800円(1980円、消費税込み)





はしがき

昔から散歩が好きである。暇なときは特に目的もなく、今日は東、明日は南と方角を決めてあてどもなく歩いていく。あまりに遠くまで歩いて、さすがに帰りは疲れてタクシーに乗ることもある。ゆっくりと歩いていると、風や日差し、鳥の声、あるいは野に咲く花にも、季節の色合いや匂いを感じられ、飽きない。

 車の免許を取ったのは30歳で、当時、宮崎県、清里という小さな町に暮らしていた。バスの便も少ないため、免許を取り、兄から譲り受けた車を運転していた。その後、転居した鹿児島市でも6年間、どこにいくのも車を使ったが、開業するために青森に来てからは、車に乗っていない。すでに27年になり、もはや怖くて運転はできない。こうしたこともあり、弘前に来てからは、時折、タクシーやバスを利用することがあっても、弘前市内のほとんどの場所を歩いた。弘前のような地方都市では、車に乗らない人を探すのが難しく、ほとんどの人は100m先のコンビニにいくのも車をつかう。友人からすれば、どこに行くのも歩く私を驚きの目で見て、よくそんなところまで歩いていくなあとからかわれる。私にすれば、江戸時代、いやほんの数十年前まで、皆歩いていたと言いたいところであるが、ひたすらニヤついている。

 弘前の街は、過去に大きな火事はあったが、太平洋戦争では空襲を受けなかったこともあり、江戸時代の街並みがそのまま残っている。本書の中でも指摘するが、一区画のみ昔の街並みが保存しているというのではなく、町全体が江戸時代のままといってよく、町名や道もそのまま、残っており、また家の敷地も江戸時代そのままのところが多い。確かに古い武家屋敷そのものが残っていることは少ないが、昔の敷地のまま、新しい家を建てたため、その痕跡はじっくりと探せば見つかる。さらに都市計画により新たな道もできたが、それでも江戸時代の道はおおよそそのまま残っており、道幅も変化していない。こうしたところは全国でも少ない。 

 タモリさんの軽妙な会話と博学な知識で人気のあるNHKの「ブラタモリ」ではこれまで三度、青森県が取り上げられ、その中に201776日に放送された第78回「弘前—サムライが作った弘前の宝とは?—」がある。この番組では、弘前城、禅林街、りんご畑など弘前の街のあちこちの歩き、弘前の歴史を視聴者にわかりやすく伝えている。企画の段階から、番組ディレクターと色々と話し合ったが、時間と主題との関連から結局は弘前の紹介したいところのごくわずかしか取り上げてもらえなかった。番組構成の上では、面白いところがあっても、主題に沿った内容にするためには、そうした部分をカットしなくてはいけない。それでも現在の弘前にある江戸時代の名残をうまく、コンパクトに紹介しており、面白い番組となった。結果、視聴率も比較的よく、ディレクターとも喜んだ。

 番組の中では、絵図の点線がついた道として、家の近所の坂が取り上げられた。なぜ古い絵図に点をつけて示したか、その説明をディレクターから求められたが、わからなかった。その後、雪国の暮らしを調べていると、いかに馬橇、人力の橇で坂を進む、とくに坂を下り時に難儀するかを知った。弘前は坂も多いが、その高低差は異なる、遠回りしても坂のスロープの小さい道を行くことができる。こうしたことは自動車に乗っていたのでは全くわからず、歩いてみて、それも冬道を歩いて初めてわかる。新雪は歩きにくいが、それより怖いのは雪が一部溶けて、それが凍った路面、アイスバーンとなった時である。昔、12月頃に大阪に学会に行った際、家を出る時は雪がなかったので、普通靴で大阪に行ったが、帰ると弘前の街は雪が降り、路面も凍結していた。弘前駅から当時いた家内の実家までの500mの距離で、何十回も転んだ記憶がある。夏道と冬道は状況が全く異なり、それなりの対応をしないと大変なことになり、これは江戸時代も今も変わらない。

 こうしたことは、実際にこの町に住んでみて、歩いてみて、そして感じてみて初めてわかることである。車はA地点からB地点に行くには便利なものであり、時間の節約となる。ただからBまでの途中の景色はあまり記憶されず、ましてや街の匂いや雰囲気を味わうことはできない。江戸時代の街を味わうためには、その当時の人々と同じスピードで感じることが重要であり、すなわち歩いてこそ、弘前の街の魅力を味わうことができる。

 そこで、観光客、弘前に住む人々に、歩くこと、散歩の楽しみを知って欲しく、2013年に出版した「明治二年弘前絵図—人物と景色を探してー」と2007年から続けている「広瀬院長の弘前ブログ」を参考に、弘前のあちこちの散歩コースについて、絵図と写真、そして歴史ネタをつけ加えて説明しようと思う。各項目かなり饒舌な説明になっており、個人的な話も多いが、愛嬌を思っていただければ幸いである。この本をきっかけにたまには車を降りて、歩いていただき、その土地が有する歴史、逸話に触れてほしい。ただ関西出身者の私に、生まれ育った弘前のことをよくも知らずに語るのはやめてほしいという声もあろうし、また書物ではそう書いていても、実際はこうで、あなたの言っていることは間違っているという声もあろう。ただ誰かが身近な歴史をまとめるのは大事なことであり、もし間違っていることがあれば是非、お教えいただきたい。

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

ご出版、おめでとうございます。明日、入手の予定ですが、ワクワクしております。
地元住民とは違った目線での発見や考察などが楽しみです。
それではまたの機会に。失礼いたしました。

広瀬寿秀 さんのコメント...

コメントありがとうございます。場合によってはまだ本屋にないかもしれません。かくみ小路の「まわりみち文庫」には昨日、本を持っていきましたので、確実にあります。よろしくお願います。