2022年3月17日木曜日

成人矯正の難しさ

 



現在、子供の治療をしていないので、患者のほとんどは成人患者となる。ズバリ成人患者の矯正治療の難しさは、患者のこだわりが強い点である。自分の意思で、自分の金で矯正治療をする、それも高い費用、長い期間がかかるため、かなり治療結果への思い込みが強い。

 

矯正治療も医療である限りは、必ず不確実性がある。ここで言う不確実性とは、いろいろな医療活動をして予測できない結果に終わり、患者の不利益になることである。具体的に矯正治療についていえば、最初に説明を受けた予想期間より延長した、結果に不満足である、歯根の吸収があった、顎が痛くなったなどで、これらの可能性については最初の治療計画の説明の段階で話しているが、それでもこうした医療リスクをあまり強く言うと治療自体を尻込みさせることになる。

 

期間の延長については、調整料がその分かかるだけなので、それほど大きなトラブルにはならないが、これに治らないという治療結果の不満足が入ると大きな問題となる。当院でも歯の移動自体が遅い患者さんもいるし、一番多いのは舌の機能に問題があり、全く思いがけない歯の移動をする場合である。具体的に言えば、上の前歯を後ろに下げようと、ゴムやワイヤーの力をかけても、そうした動きはせず、逆に前歯が前に出ることもある。これは患者の舌を前に当てる力であり、前歯が矯正力で少し動くと、それを舌で前に動かそうとする癖が発生する。こうしたことが起こると、治療が思うように終わらないことになり、治療期間もかかる。

 

あと多いのは、細かな問題に固執する患者である。1/10mm単位のずれ、肉眼ではほとんどわからないようなズレを気にする患者さんも多く、ワイヤーを曲げて修正すると、今度は違う箇所のわずかに問題点が気になる。一番、困るのは、治療を終了して装置を外してから、ズレが気になる、治してほしいと言われることである。外す前に言ってくれれば、ワイヤーを調整して直せるが、治療後に言われると、もう一度装置を装着することになる。もちろん装置を外す前には何度も次回外すが、気になるかと尋ねる。大丈夫ですと言われても装置を外すが、1ヶ月後にやはりここが気になるとすぐに再治療を要求されたことがある。また矯正治療は、命に関わるようなものではなく、しないという選択肢もある。そのために初診時の段階で、あまり神経質でストレスがかかりそうな人には、よく検討してもらっている。矯正治療自体、ストレスになるし、治療が終了しても、満足感がない場合が多い。そのため、上下の前歯のわずかなデコボコを主訴とする患者は、治すのは簡単だが、それをキープするのは難しいと基本的には断っている。

 

一方、成人患者では、矯正治療の動機がはっきりしているので、歯磨きやゴムの使用など、きちんとする症例がほとんどなので、治療結果についてはドクターの責任となることが多い。そのため、うまくいかない場合も、その原因をきちんと説明し、他の方法による治療、あるいは妥協した結果で満足してもらうことになる。大金を出しているので、こうした説明を受けても患者さんはなかなか満足してもらえず、自分の診断、臨床能力のなさを痛感する。こうした患者さんは全体の2割くらいはいる。これが通常の歯の外側につけたブラケットによるワイヤー矯正治療での話であり、歯の裏側にブラケットをつけた舌側矯正はもっと難しいであろうし、個人的にはマウスピース矯正、アライナー矯正ではこうしたうまくいかない患者さんの割合は、おそらく半分以上になるだろうと思っている。それゆえ、成人矯正の難しさを知る多くの矯正歯科医は、自分の得意とする唇側矯正しかしないのはこうした理由である。逆にマウスピース矯正だけで成人矯正を行う先生の勇気には驚く。患者さんからいろんな不満を言われてどう対処するのか、ワイヤー矯正に比べて対処法が少なく、とても解決できるとは思えない。


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