2022年4月17日日曜日

口元が出ている患者さんの矯正治療






このところコロナ禍のせいか、マスクをするのが普通となり、その間に矯正治療をして歯並びを治そうと考える患者さんが多くなっています。目元はいろんなメーク〜で魅力的にできるのですが、マスクを外すと自分のイメージした顔になっていないと感じるようです。この場合、歯並びが悪い、具体的に言えば歯が凸凹している、ねじれているというだけでなく、口元が出ているのも気になる人が多いようです。そのため、最近の来院患者さんを見ていると、でこぼこはそれほどでなく、どちらかというと口元が出ていて、それが気になるという患者さんが増えています。口元が出ていて、お口を閉じられない、歯がいつも露出しているというタイプです。こうした患者さんの不正咬合を上下顎前突と呼びます。確かに上下の顎が前に出ているケースもありますが、一般的には上下の歯が出ているケースです。

 

この亜流として、凸凹があり、下アゴが小さいために、口元が出ている症例があります。下あごが後方に回転しているもので、アゴが後方に回転しているために下の顔の長さが長くなり、後退しています。上の歯は必ずしも前に飛び出ていませんが、下の前歯が前に出ています。日本人に多いタイプの不正咬合で、診断としては上顎前突の部類に入ります。

 

いずれの症例でも、歯を抜かない治療はかなり難しくなります。上下顎前突の場合、歯と歯の間を削るディスキングや大臼歯の後方移動でも十分な空隙確保ができず、小臼歯4本を抜いて治療する場合がほとんどです。さらにいうと大臼歯、特に上の大臼歯が前にいってほしくないため、ヘッドギアーや矯正用アンカースクリューを併用します。また下顎が後方回転している症例では、大臼歯の後方移動はさらに下顎を後方回転させるために禁忌となり、これも小臼歯抜歯症例となります。とりわけ、こうした症例は容易に上の大臼歯が前に動いてしまいますので、大臼歯が前に出ないような工夫、最大固定が求められます。さらに上の前歯がそれほど前に出ていない場合は、後ろに移動させるにはトルク、歯の根を中に入れる動きが必要なので、治療が難しくなります。日本矯正歯科学会の専門医試験のカテゴリーの中でも最も集めにくい症例です。つまりうまくいっていない症例が多いことを意味します。

 

You-tubeなどでインビザラインの症例を見るのが好きで、よく見ていますが、こうした口元が出ている症例を、歯を抜かないで、治療しているケースがたくさんあります。私のところにもメールで相談にくる患者さんもいます。まず初診時の横顔のレントゲン写真、セファロ写真と現状のセファロ写真の分析結果を見せてもらうように勧めます。上下の前歯の理想的な角度や鼻—オトガイ(E-line)など、前歯の関係が正常であるかを示す数値がたくさんあり、それと理想的な歯並びの標準値を比べます。治療中の前歯の角度が標準値よりかなり大きいのなら、アウトで、診断ミスとなります。いくら先生が前歯は出ていないよと言っても、数値はウソをつきません。もちろん最初の段階で、この前歯の数値が非抜歯で治療したなら、これくらい大きくなり、口元もこれくらい出ると説明受けた上であれば仕方がありませんが、そうした説明が一切ない、セファロ写真も撮っていないとすれば、100%、訴訟されれば歯科医の負けとなります。

 

セファロ写真を撮ると、必ず分析結果と、それをもとにした治療法が提示されます。上の前歯がかなり出ていて、口元を入れたいのであれば、抜歯が必要です。あるいは治療途中で、歯を抜かないで治療してきましたが、治療前よりかなり数値が大きくなり、抜歯治療に変更した方が良いということもあります。それゆえ、初回の検査でもし、セファロ写真を撮らないようであれば、それはアウトですし、もし検査結果を聞くなら、インビザラインによる治療で、前歯の角度が標準値とどう違うのか、治療後、その数値がどうなるかを必ず聞いてください。さらに治療中に口元が出ているのが気になるなら、その時点でレントゲン写真を撮って確認してもらってください。

 

こうしたことは矯正歯科医にとっては当たり前のことで、きちんとした検査もなく治療することは地図も持たずに登山をするようなものですし、登山中の正しい道にいるかを確かめることも大事です。一般歯科の先生は、でこぼこが治ればいい、口元が出ていのは気にしない先生がたくさんいますが、患者にとっては口元こそ一番気になる点であり、そうしたギャップがインビザラインによる治療の場合、顕著になります。くれぐれも検査結果をよく聞いて、納得してほしいと思います。

 

 

 

0 件のコメント: