2022年4月4日月曜日

マウスピース矯正が流行っているワケ

 

アメリカの矯正歯科クリニック


つい最近の毎日新聞で、成人の矯正歯科治療が増加しているという記事があった(https://news.yahoo.co.jp/pickup/6422725)。コロナ禍、マスクをつけるのが一般的になり、マスクをしているうちに矯正治療をしようとする成人が増えたせいだ。私のところでも、二年ほど前から子供の治療を中止し、中学生以上の患者のみ診ている。それまで患者数の半分以上が子供だったので、新患数はかなり少なくなると考えていたが、こうした矯正治療の流行もあるのか、それほど減っておらず、成人患者だけを見ればコロナ前の倍増している。

 

ここ数年、アメリカでもそうだが、マウスピースのような装置を利用して歯を移動させるアライナーと呼ばれる矯正治療が流行っている。毎日、20時間以上装置をつけていなくてはいけないが、あまり目立たないため、若い女性を中心にこうした治療を受ける人が多くなっている。費用は決して安くはなく、東京では大体100万円前後する。ただ多くの矯正専門医は、こうした装置を積極的には使っておらず、ネットなどで宣伝しているのは多くは一般歯科医である。

 

確かにアライナー矯正のレベルも以前と比べてかなり上がっているが、ワイヤー矯正ほどのレベルに達していないのが現状であり、今後もその力系から無理と思われる。さらに言うなら、一日20時間以上の装置は、思った以上に大変であり、これを数年続けるのは難しい。もちろんワイヤー矯正でもゴムの使用など患者の協力が必要であるが、それほどではない。多くの矯正医は、患者の非協力で治療がうまくいかなかった経験を持ち、あまり患者の協力を求めない治療法を選択する。個人的な経験から言うと、矯正装置が歯の表側につくのを嫌う患者さんは、神経質で細かなところに気になる人が多い。ワイヤー矯正であれば、ワイヤーベンディングや抜歯などである程度対応できるが、アライナー矯正でもそうしたわがままと言える患者の要求に十分に答えることが難しく、最終的に患者は不満を持つことが多い。特に危惧されるのが、口元の突出感で、多くのHPで見る限り、小臼歯を抜歯していっぱいに前歯が中に入れないと口元が入らないケースを非抜歯で治療している症例がほとんどで、確実に患者からクレームがくる。もちろん、そうしたクレームが来れば抜歯して、再設計したアライナーによる治療を続けるが、今度は臼歯が倒れこんだり、小臼歯部が噛まなくなり、期間も大幅に延長する。その挙句にこれ以上の治療はできませんとなる。

 

現状で一番問題なのは、アライナー矯正の多くが薬機法適用外の商品で、それによるトラブルは一切、歯科医の責任となり、また患者から訴訟されると今のところ不利な治療法である。なぜなら矯正歯科臨床を代表する、大学および学会ではアライナー矯正の問題点を挙げており、この治療法については否定的である。それゆえ、患者から訴訟されても、学会は絶対に歯科医の肩を持たない。さらに言うと、日本矯正歯科学会の倫理委員会では認定医の更新に際してホームページのチェックを行い、基本的にはアライナー矯正の広告についてはかなり制限をしている。そのため多くの矯正歯科専門医のHPにはアライナー矯正のことは詳しく書けない。つまりHPでは矯正歯科専門医のアライナー矯正の記載はほとんどなく、アライナー矯正の派手な広告をしているのは一般歯科となる。これら広告の多くは医療法に違反しているが、矯正治療を考えている患者がHPを見ると、こうした一般歯科のアライナー矯正の広告が目に入り、そこで治療を始めることになる。必然的に被害者は増え、矯正専門医に行っても、そうした治療を選んだ患者の責任と言われ、全く始めからの治療となり、費用や期間がさらにかかる。私のところにもこうしたトラブルが2件、青森市の先生は数件、東京の先生は数十件と、大都市では相当な数のトラブルが増えている。今後、ますます多くなるだろう。

 

どうしてもアライナー矯正による治療を望むのであれば、ワイヤー矯正でも十分な治療でできる歯科医を選ぶようにしてほしいし、アライナー矯正でうまくいかない場合は、ワイヤー矯正にチェンジできるか、最初から十分に話し合ってほしい。現状では、日本矯正歯科学会の認定医、臨床指導医は、その医院のHPにインビザラインのことを詳しく書くと、資格更新できないことになっている。逆にインビザラインのことを詳しく書いている先生は、日本歯科学会の認定医の資格はなく、ワイヤー矯正はあまりできない。アメリカでは、ほとんどの矯正専門医がインビザラインを使っている。なぜなら、アメリカの矯正歯科は、一日に200-300名の患者を診るところも多く、治療を衛生士や助手が行なっており、そうした診療所ではドクターがほとんどタッチしないインビザラインは有益となる。日本では私のところのように一日20-30名のところでは、簡単な症例でもブラケットをつけてワイヤーで治した方が早いし、期間も少なく、技工料も少ない。そのためインビザラインを導入するメリットが少ない。

 


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