2022年5月7日土曜日

平吉輝=香川芳園=滋野芳園 顔の画法からの推論

 

チェスター・ビティー図書館の芳園輝の作品







私の所有する大国主命、香川芳園の署名


現在、京都近代美術館で“サロン 雅と俗—京の大家と知られざる大阪画壇”が開催されている。その一環として、大阪商業大学の明尾圭造先生の「大阪に西山派あり!—芳園・完瑛にみる写生画の系譜」という講演があり、you-tubeにもアップされた。早速、見たが、私のことも講演中に喋っていただき、恐縮している(1:29くらいから)。

https://www.youtube.com/watch?v=AUql_obT36M


その中で、もう一人の芳園、平吉輝のことを今から調べれば、世界3番目の権威になれると冗談で語っていたが、実は私とシンシナティー美術館のホウメイさん以外にも研究している人がいて、私とメールをやりとりしているのは中国のチェンチェンさんと、以前にはロシアのアレクサンダー・クラシェニコフさんという方や、イタリアのベニス美術館のフランチェスカ・ストルティという方からもメールが来た。海外に多くの作品があるので、研究者も世界に散らばっているのだろう。

 

今回の講演でも、もう一人の芳園、平吉輝については、はっきりしないということになったが、個人的にはやはり平吉輝=香川芳園=滋野芳園と考える。理由としては、印章は違うが、署名は極めて近く、画風も一部、似ているためである。平吉輝の作品のうち、人物を描いているのは、シンシナティー美術館に一点、そしてアイルランドのChester Beatty Libraryには絵巻がある。画家により人物描写は、明らかに特徴があるため、今回は人物描写、特に顔の描き方より私の説を検証してみたい。

 

まずシンシナティー美術館の天の岩戸を描いた絵、中央のこちらに顔を向けた人物像に着目する。切れ長の目で、鼻が高く、西洋風の顔である。次にチェスターの絵巻を見ると、冒頭の中国の賢人の絵の人物像、右人物も同様に切れ長の目と高い鼻を持ち、長いひげのせいか、シンシナティー美術館の絵より顔が長い印象を持つ。ここまでが「平吉輝」の人物像である。ついで香川芳園の人物像を見てみると、私が所有する古事記の大国主命像は、より西洋的な風貌をしているが、切れ長の眼、高い鼻など、平吉輝の人物像、特にチェスターの中国の賢者像とほぼ一致し、平吉輝=香川芳園は、画風と署名からは同一人物と推測される。ただ香川芳園は、“比喜麻呂”、“比喜麿”、“蟾麿”などの印章を用いるが、現在、こうした印章のある芳園の作品の多くは、明らかに芳園輝、香川芳園と署名されている作品に比べると、画力がかなり落ち、稚拙である。このギャップが非常に大きい。若い頃はいい絵を描けていたのに、年齢を取ると画力は極端に落ちる、あるいは署名も稚拙になる理由としては、脳梗塞などで手が使いにくくなったとか、目が悪くなったとか、何らかの病気が関与しているのかもしれない。

 

明治初年から中頃まで、海外輸出用の四条派の精緻な絵を描いていた香川芳園は、号が江戸後期に活躍する大阪画壇の西山芳園とかぶるため、「芳園輝」の署名で作品が欧米に輸出された。同時に西山芳園の絵も海外に輸出され、これらが同じ西山芳園の絵として混同され、これまで大英博物館、チェスター美術館、アルバート美術館やシンシナティー美術館で展示されてきたが、逆に日本ではほとんど着目もされなかった。その後、香川芳園の署名のある絵が、イタリアのベニス美術館やオーストラリア美術館に納められたが、実際の香川芳園は、それほど注目されることはなく、神戸市の依頼で漁場、漁法の風景を描いたり、あるいは大阪、兵庫で門人に教えたりしたが、次第に若い頃のような絵が描けなくなり、いつも間にか完全に忘れられていった。その後、オークションや骨董店に出ても、西山芳園の誰が見ても贋作とわかる作品として残った。現在、香川芳園作と思われる内容の良い絵は、ほとんどなく、私が知っている限り、ここ十数年のヤフーオークションでは3つくらいしかない。

 

今回の展覧会でも、そうであるが、大阪や京都の趣味人に絵がそこそこ売れれば、別に帝展などの展覧会に作品を出す必要もなく、そうなると文献上は全く無名の存在になるのは今でも同じである。香川芳園についても多くの優れた作品が海外にあり、逆に国内には芳園と署名のある稚拙な作品が残ったため、これまで誰も注目されることはなかった。香川芳園が亡くなったのは明治40(1907)であるが、横山大観など新しい時代の日本画家が出てくるのは明治30年以降であり、それまで弟子もあまり取らずに、少数の顧客のためだけに描いてきた画家については、今回、紹介されている画家にも上田耕沖、佐藤保大、佐藤魚大など優れた画家がいるが、いまだに評価は低い。


シンシナティー美術館の芳園輝の作品











以前のヤフーオークションに出品された芳園の署名の屏風、署名は全く異なるが、顔は似ている



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