2022年5月1日日曜日

古いものは残すべきか

 




週一回、英語の勉強のために、仲間とアメリカ人教師と酒を飲みながら雑談している。毎週、その週のテーマとなるようなことを話すのだが、先週は、更地になった旧千葉酒造店のことを話題にし、弘前に残る古い建物保存のことを議論した。

 

私としては、古い建築物については、台湾の文化創生運動に準じて弘前市、青森県が何らかの財政上の援助が必要であるとした。ところがアメリカ人の教師からは弘前市民の支持がないものに対して、弘前市が財政上の援助をするのは、税金の無駄遣いであり、そのいい例として弘前れんが倉庫美術館を引き合いに出した。美術館に併設するレストランはおしゃれなのはいいのだが、冬場は寒いし、客も入っていないという。

 

それに対して、こうした美術館は観光スポットとして町の活性化にも繋がる、現状はコロナ禍で、今後、収束すれば、美術館に来る観光客も増えると反論すると、観光客で潤うのは市民の一部であり、この美術館に来る市民も少ないことから、積極的に美術館を評価する人は少ないのではないか、多くの市民にすれば、古いれんが倉庫が壊され、更地になっても構わない。

 

それでは弘前観光の目玉である弘前城も壊して、更地にしてもいいのかというと、そこに大きな企業が入り、就職する人も増え、直接的に弘前市民の収入が増えるなら、別に弘前城を壊してもいい。古い建物に執着する必要はなく、積極的に壊して新しい建物を建てる方が良い。さらに言うなら、図書館も利用者は一部の市民に偏っている、公民館の利用も老人に偏っている、市営野球場も野球に関心のない人にとっては無用である。まあこれはデベイトと呼ばれる議論における儀式であり、本気で言っているわけではないが。

 

ただこうした議論を突き詰めていくと、弘前市民全てが利用し、確実に税金の無駄ではないものは何であろうか。まず病院、特に弘前大学医学部附属病院のような高次医療機関は必要であろう。ただこれも、大学病院があるのに市立病院が必要かという問題点は残る。ついで学校、小中高校は、これがなければどうなるかと考えれば、誰しもなくなることは嫌がるだろう。特に義務教育である小中学校の廃統廃合は反対する人も多いだろう。また焼場、市役所、保健所、警察、消防署、ここまでは存続に誰しも依存はないと思う。ただ水道局はというと、電気、ガスが民営であることを考えれば、民間移譲は可能である。もちろん市バス、市電、地下鉄なども同様に民間移譲できる。

 

逆に一部の人のみが利用し、必要ないと思われるものとして、弘前で言えば、美術館、博物館、文化センター、市民会館、図書館、藤田記念庭園、弘前市民広場、野球場、陸上競技場、武道館など体育館、公民館、仲町武家屋敷群、弘前城公園、りんご公園などの各地の公園、太宰まなびの家、弘前弥生いこいの広場、高岡の森弘前藩歴史館、城北ファミリープールなど市営プール、市民ゴルフ場、まちなか情報センター、星と森のロマントピア、忠霊塔、相馬ふれあい館、こどもの森ビジターセンター、白神山地ビジターセンターなどなど、市町村合併もあり、かなり多くの施設が弘前市営となっている。他にあるだろうが、アメリカ人教師に指摘されるまでもなく、建築費以上に問題になるのは施設の維持運営費で、どの施設もそれほど市民に使われているとは言いがたく、民間移譲しても経営的にはやっていけそうにない。

 

一方、こうした施設が一切なくなると、公的機関が関係するのは基本的インフラのみに限定され、さながら財政破綻した北海道の夕張市同様となる。実際に夕張市は財政破綻後、上記のような市民生活に直接関係ない施設はすべて廃止、さらに学校、病院も縮小した結果、若者離れが急速に進行し、人口も大幅に減少した。117千人であった人口(1961)は、現在、8612人まで減少している。

 

古いものを残すのはいいが、それを誰が、どうのように維持していくかが、問われる。本町の旧千葉酒造店の件でも、古い土蔵付きの家で喫茶店を始めたいという人を、全国を探せばいたかもしれない。今は更地になっているが、坪数で言えば150坪程度であり、昨今は土地の値段も下がり、売買価格も3000万円は行かないであろう。解体費も含めると2000万円代で売ることも可能であり、その程度の値段であれば、全国にアピールすれば買手がいたかもしれない。直接的に弘前市が財政的に援助できなくても、その保存をさぐる手段はなかったかと悔やまれる。同様に駅前の吉井倉庫と事務所についても、今のままであれば、誰も買手はなく、売るなら更地にしろという不動産屋の声で、結局は空き地か、駐車場になるのが関の山であろう。結局、古いものが残るためには、市民の故郷愛が必要であり、そうしたものが希薄であれば、無くなっても仕方ないのかもしれない。現在、私の本の表紙を飾った一戸時計店を保存しようと有志によるクラウドファンドが立ち上がっている。現時点で(5/1)で目標額の73%である。無事に募集終了まで全額集まるか、一つの弘前市民の文化財保護の見識を見る尺度と見ている。


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