2022年5月19日木曜日

アライナー矯正の乱立

 


昨日、今日と「キレイライン」と言うマウスピース矯正治療を受けた、あるいは話を聞きに行った患者が新患として来た。

 

 

一人は、簡単で費用も比較的安いキレイラインのことをネットで知る。青森県でしているところを調べるとむつ市にあることがわかり、わざわざ車で3時間かかけて、みてもらったと言う。下の前歯が二本なく隙間が開いていて(先天性欠如)、上の歯がでこぼこしている。キレイラインで治ると言う。

 

もう一人は、でこぼこがあるため、仙台で1年間、キレイラインにより治療を行い、少しよくなったが、これ以上治らないですかと聞くと、はいそうですと言われ、治療をやめたと言う。

 

まず、最初の症例で言えば、主訴は“上の前歯がでこぼこしている”、“下の隙間が気になる”であり、マウスピース矯正でも上のでこぼこは治るし、下の隙間も閉じるであろう。ただ素人考えても上の前歯を前に出してでこぼこをとり、下の歯を中に入れて隙間を閉じ、奥歯の関係が正常なら、出っ歯になることはまともな頭を持っている人ならわかるはずである。確かに主訴は治るかも知れないが、新たな不正咬合“上顎前突”を作るだけである。おそらくここで治療し、主訴が解消しても、今度は出っ歯になり、その治療を要求しても治療してくれないだろう。上の小臼歯を抜歯して、マルチブラケット装置で治すべきである。次のケースについても、でこぼこだけでなく、口唇の突出感もあり、小臼歯を抜歯してでこぼこの解消だけでなく、前歯を中に入れる必要があり、とてもキレイラインで治る症例でない。

 

いずれの症例も小臼歯の抜歯とマルチブラケット装置による約2年間の治療を要し、とてもでないが、非抜歯、キレイラインで治る症例ではない。それでは、なぜ、この二人の先生はキレイラインで治ると言ったのであろうか。

 

一番考えられるのは、こうした先生は、矯正治療のゴールがわかっていないのである。世界中の矯正専門医のゴールはほぼ決まっている。ある意味、矯正治療というのは、上下の顎の関係によっても違うが、理想的な顔、上下の歯の関係、上下の歯のかみ合わせなどがあり、それを達成するものである。日本で専門医試験に合格する症例がアメリカやヨーロッパの矯正専門医の試験にも合格するのは、ゴールの基準がほぼ同じであるからである。もちろん人種差があるが、審美的観点からは世界中の基準は収束しており、特にアジア人、黒人では口元が出ていて、それを引っ込めることが多くなる。日本の矯正歯科医の多くは、大学でこうしたゴールを学ぶため、どうしても口元の突出感が気になる。一方、一般歯科医の多くは、治療のゴールについて知る、あるいは学ぶことはなく、でこぼこがなくなり、かみ合わせがよくなれば良いと考えるが、アジア人の多くは口元が出ているのを嫌う。欧米人のような口元が中に入っている顔を選ぶため、どうしても抜歯症例の頻度が高くなる。

 

つまり一般歯科医では矯正治療のゴールが明確でないため、でこぼこが治れば、治療を成功したと感じるため今回の二症例においても小臼歯を抜歯して治療をするという発想はない。歯科大学の学生教育でも、こうした美的なゴールについてきちんと教育しなかったせいかも知れない。私も小児歯科にいた時は、あくまで歯のでこぼこを中心に見てきたため、口元の突出感という観点はなかった。矯正歯科専門医であれば、初回検査で、今の前歯の傾きはこれくらいで、抜歯して治療すれば、8mmくらい歯が中に入り、それに伴い口元もこれくらい中に入るとシミレーションできる。また治療途中にも必ず検査を行うので、順調にゴールに向かっているのか確認できる。ところが初回検査の時にレントゲン撮影(セファロ)しなければ、そもそもゴール自体がわからない。そのため、インビザラインやキレイラインで治療する場合も、必ずレントゲンの検査結果を確認し、標準値に比べてどの程度、出ているのか、あるいは治療後にどの程度下がるかを必ず聞いてほしい。先生自体、治療ゴールがはっきりしていないので、ここで患者さんからゴールを確認するのである。

 

もしレントゲン写真(セファロ)を撮らないで治療を開始しようとするなら、そうした医院での治療はやめた方が良い。あるいは先生に、どうしてセファロ分析をしないのですが、口元が出ている、歯が出ているかを数字で客観的に見るのはセファロ分析しないとできないのでは、と尋ねてください。歯科大学の学生教育でも習ったはずである。さらにこうしたことを最初にきちんと確認しておくことは、もし治療が始まって2年経っても口元が下がっていない、逆に出ている場合は、もう一度、レントゲン検査を要求し、初回検査時のそれと比較してもらってください。そうした場合、おそらく小臼歯抜歯が必要となるので、治療計画を変更してもらうことになる。これ以上の治療は無理と言われたなら、契約不履行として治療の達成度に準じて返金を要求してほしい。おそらく、でこぼこが取れた段階であれば、日本臨床矯正歯科医会の基準でいえば、レベリング終了段階で、返金は治療費の60-70%となる。ただ最初、口元が8mm下がると言われ、実際6mmしか下がらなかったのは、必ずしも契約不履行とはならないことは理解してほしい。あくまで8mm下がると言っておきながら全く変化ない、あるいは逆に出ている場合である。あくまで天気予想で、晴れと予測をしても一部曇りになることはある。

 

PS:ヤマト運輸がマウスピース矯正治療に参入したというニュースを聞いた。まんまとアメリカ帰りの医者にそそのかされたようである。矯正歯科産業は、3000億円の市場と言われ、多くのマウスピース矯正法が乱立しているが、いずれもここで紹介したキレイラインと同じで、まず特定商法取引法の指定となり、かなり厳格な契約書が必要となるし、安いと言っても20万円以上はするため、いずれ需要もなくなり、一気に淘汰されていくだろう。

ちなみに私が知る限りの治療法は

 

Glory Smie                             セルフ印象、168000円、

We Smile                                 提携医院  1131万円

ローコスト                         提携医院  22-44万円

Be-Setlign                              提携医院  15-40万円

クリアアライナー    提携医院 20-80万円

Hanaravi                               セルフと提携医院33-66万円

Oh my teeth                          セルフ印象、3366万円

キレイライン         提携医院  23-41万円

Depearl                                 提携医院   30-70万円  

Hanalove                                提携医院   20-70万円

SmileTRU                             提携医院   25-65万円

アソアライナー     技工、提携医院

インビザライン     提携医院   4499万円

Sure Smie                               提携医院   インビザラインとほぼ同じ

 

ダイナミックポジショナー

Essix

 


このうち、2(1)と4(3)の角度が非常に重要で、標準値は2は110度、4は56度くらいとなる。1SDは5度くらいなので、説明の場合はこれは覚えておこう。非抜歯の場合は、ディスキングや側方拡大でスペースを獲得でき、でこぼこの程度にもよるが、多くの場合は、この値が大きくなる。もともとこの値が大きい場合は、非抜歯での治療は難しい。




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